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イノセント ワールド
あれは、幼い幼い子供の頃。
僕はずっと光を夢見てきたけれど、そもそも僕という人間は光のある場所には似合わないらしい。
あの時、一瞬だけ光を見たけれど、僕は光に拒まれたのかもしれない。
きっと、そうだろう。
生まれてから10年間、今まで僕が見てきた空は、
いつでも暗く、ささやかな星の光だけに照らされていた。
それは僕と、僕がいる夜の世界クレイズリアの人間にとってはとても当たり前のこと。
『朝』なんてものは来ない。『太陽』なんか昇らない。見たことも、無い。
クレイズリアには光がないから、野菜や果物も育たない。
だから光の世界レイリアから買っている。
レイリアとは『扉』で繋がっている。
それは魔法の扉みたいで、そこから出たらすぐにレイリアらしい。
でもクレイズリアの王様は、レイリアへ行くことを禁止していた。
だからいつもレイリアの人が野菜や果物を持ってこっちに来た。
王様は目が見えなかった。
でも立派な人なのよ、って母さんが言ってた。
僕にはよく解らない。
光の世界に行ってはいけないなんて。
僕は光を見てみたかった。『太陽』の眩しい眩しい光を。
「レイ!」
僕は振り返った。
そこにはスフィアがいた。
僕がレイリアに行きたいと思っていることを知ると、僕をバカにし始めた奴だ。
学校ではいつも僕より下なくせに、悪知恵と口だけは働く嫌な奴。
「・・・何?」
「レイリアに行く準備は進んでるのかぁ?レイ。お前は頭はいいから、本なんかでも読み漁ったりしてんのか?『光』なんて意味の名前をもらったって、光には届かないのになぁ。」
そう言ってスフィアは笑いを堪えていた。
大人たちもレイリアに行くなんて悪いことだと言うけれど。
「じゃあな、レイ!」
ひひひ、と笑ってスフィアは走っていった。
一体何のために来たんだろうと思いながら、でも僕の中でレイリアへの思いは強まるばかりだった。
いつか行ってやるさ。
「レイ、お父さんよ」
母さんが僕を呼んだ。
急いで玄関へ走ると、もう父さんがいた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
父さんはそう言って笑って、大きな手で僕の頭を撫でた。
「やめてよ父さん。僕だってそんなに子供じゃ無いんだからさ」
僕がむすっとして言うと、そうだなと言ってまた父さんは頭を撫でた。
父さんは、レイリアと繋がっている『扉』を守っている。
素敵な仕事だと思う。
あの魔法の『扉』のそばにいつでもいられるんだ。
そんなことを考えながら玄関に突っ立っていた僕は、母さんに背中を押されて夕飯がたくさんのったテーブルへ向かわされた。
「ねえ、父さん。今度『扉』が開くのはいつなの?」
「そんなこと聞いて、レイリア行こうだなんて思ってない?」
母さんがそう言った。
「行こうと思ったって無理だよ。だって『扉』は父さんが守ってるんだから」
「それもそうだな。レイ、次に『扉』が開くのは明後日の昼だ。レイリアの偉い人が来るから。」
偉い人っていうのはクレイズリアの王様みたいな人だろうか。
「へぇ。何しに?」
「これから1年間、クレイズリアが野菜をどのくらい、果物をどのくらい買うのか、レイリアはどのくらい売ればいいのかを決めに来るんだ。父さんも明後日は大変だ」
父さんが仕事のこととかを話し始めたけど、僕は明後日レイリアに行ける希望を見出した。
今日は『扉』が開く日。
僕は一昨日、父さんから今日『扉』ガ開くと教えてもらってから計画を立てた。
まず『扉』まで行くのが難しい。でもそれは僕はクリアできる。
僕は魔法使いらしい。
レイリアの本を読んでいると、蒼い髪の人間は生まれつき魔法が使えると書いてあった。
それを知って魔法の本を読み始めると、だんだんおもしろくなってきて、いくつも魔法を組み立ててみた。
もちろん、魔法が使えることは内緒にしてる。
今回使うことにしたのはテレポートの魔法だ。
知っているところならどこへでも行ける。ただ僕はその場所を思い描けばいいだけだ。
開いたばかりの『扉』は何時間か開きっぱなしになってる。
だから父さんはいつも以上に扉を守るのを頑張らなくちゃいけない。
時計を見ると、もうそろそろ昼になろうとしていた。
昼過ぎに行った方が確実だと思った僕は、とりあえず少し待つことにした。
そして昼過ぎ。
僕は呪文を唱えた。
自分で組み立てて、成功することを確かめた魔法。
強く強く、いつも違う色をたたえた鏡のような『扉』を思い描いて。
その時僕は、ふわふわした羽毛に包まれたような感じを覚えながら飛んだ。
一瞬だけ飛ぶ鳥の感覚を味わった気がした。
そして気がつくと僕は『扉』の前にいた。父さんも、父さんと一緒に『扉』を守っているはずの人も、『扉』のある部屋の入り口の方で何か話していた。今だ。
今しかない。
躊躇っている時間は、無い。
僕は『扉』の中に飲み込まれていった。
ぶよぶよした皮を1枚隔てて、海の中に放り出されたみたいだった。
少し気持ち悪い。
少しすると、 明るい何かが見えた。
あれが、太陽?
そのうちに僕はその光にどんどん近づいていった。
僕はその時無意識に、テレポートの呪文をを唱え始めていた。
何処に行くのかも解らないのに。
ただ、太陽のある場所へ、と。
レイリアの『扉』から遠い所へ、と。
そしてその光に触れた瞬間、光がはじけた―――
僕は見たことの無い世界に立っていた。
見渡す限り空は真っ青で、白い雲がふわふわと浮かんでいて、赤茶色の土には鮮やかな緑色の草や木が覆い茂っていた。花も、赤や白や黄色や紫とか色と
りどりだった。
クレイズリアにある花といえば、花びらが透明な青い色をしたシャリースくらいしか思い浮かばない。
そんなことを考えながらレイリアの景色にみとれていると、なんだか頭がくらくらしてきて僕はそのまま地面に倒れてしまった。
目が開けられない。眩しい光が地面を焼いて、かなり暑い。力が入らない。
太陽の光は、慣れない僕にはどうも強すぎるらしい。
地面に倒れたまま目を閉じていると、鳥の声や風の音がはっきり聞こえてくる。
涼しい風が吹いてきたので、少しくらくらするのも落ち着いてきた僕は目をそっと開けてみた。
真上には太陽が光り輝いていた。
でもそれは、ほんの一瞬のこと。
「うわああぁぁっ!」
灼けるように目が熱くなって、僕は叫びながらのたうちまわった。
そこで僕の意識は途切れた。
僕は夢を見た。
真っ青なレイリアの空に包まれている僕を、僕がクレイズリアから羨ましそうに見つめていた。
そこではクレイズリアとレイリアはすぐそばにあって、いつもお互いが見えた。
空に包まれている僕が『太陽』を見上げると、すっと青い空が夜に閉ざされて、何も見えなくなった。
「・・・ここは?」
夢から醒めると、僕は柔らかいベッドの上にいた。
「気がついたんだね」
優しそうなおばさんの声がした。
僕はベッドから体を起こそうとしたけど、上手く力が入らなかった。
とりあえず声のする方向に顔を向けた。
「無理しない方がいいよ。あんたね、さっきそこで倒れてたんだ。どうしたんだい?」
「・・・・・・」
「言いたくないのかい?・・・それじゃあ、名前は?」
だんまりを決めた僕を責めることなくおばさんはそう言ってくれたので、少し安心した。
「・・・レイ」
「レイね。あたしはシーラだよ。子供がいないから亭主と2人暮らしさ。・・・まあ、それにしてもあんたいやに真っ白な肌して。ここいら辺の人間じゃないだろう?どこからきたんだい?」
「・・・クレイズリアから」
「は!?どうやって!?」
「『扉』を通って来ました」
僕がそういうと、シーラさんは黙ってしまった。
でも、さっきから目を開けようとしてるのに、ずっと真っ暗なのはどうしてだろう。
「助けてくれてありがとう。でもごめんなさい。貴女の顔を見たいんだけど、目が開かないんです。疲れてるのかも知れない」
沈黙を取り去ろうと僕は口を開いた。
だけど僕がそう言っても、シーラさんは黙ったままだった。
「あの・・・」
「あんた、本気でそう言ってるのかい?」
僕の言葉を遮って、シーラさんが悲痛な声で叫んだ。
「え・・・?あ、はい。」
「レイ・・・あんた、まさか・・・ちょっと待ってな。医者を呼んできてあげるから」
シーラさんが走っていく音が聞こえた。
何も見えなかった。
そしてどたどたと走って来るシーラさんの足音と一緒にお医者様が来た。
お医者様が何をやっているのか見えないし、見えていても医学の『い』の字も知らない僕にはよく解らないことをやったり、言っていた。
特に僕の目の辺りを触っている。
「シーラ、この子はもう・・・」
「やっぱり・・・」
シーラさんとお医者様が、何か暗い声で話している。
そのうちに、シーラサンがわっと泣き出して僕を抱きしめた。
「あんた・・・もう目が見えないって・・・」
そう言われても、僕はあまり気にすることはないんじゃないかと思った。
だって、クレイズリアにいた時とあまり変わらないような気がするから。
そして結局僕は夜の中で生きることになった。
子供がいないシーラさんは、僕を自分の子供にしたいと言ってくれた。
10年くらい前に生まれたばかりの子供を病気で亡くしたといっていた。その子供は、今生きていれば僕と同い年らしい。
僕はシーラさんの子供になった。
シーラさんから、『扉』から勝手にレイリアに行った人間の家族には刑罰が課せられると聞いたから、多分父さんも母さんも離れ離れになってどこか知らない所にいるか、最悪の場合もういないかも知れないと思うので。
そして僕はレイリアで、盲目の魔導師として有名になった。
シーラさんも、その旦那さんも優しい人だったし、僕は幸せだった。
僕の目は、クレイズリアの人間には強すぎる太陽の光のせいで見えなくなってしまったから、レイリアの光を見たのはほんの一瞬だったけれど、それでも今の僕は満足している。
間違いなくレイリアの光を見ることができたし。
ただ、レイリアに来て気付いたことはたったふたつだった。
やっぱり僕はレイリアの光に拒まれたんだってこと。
僕はやっぱり夜の中で生きるべきだったんだってこと。
それだけ。
アトガキモドキ
「MIX JUICE」のアヤノちゃんに、300HIT記念に送った話です。
珍しく短編を書きました。Dearest以外で書くとは思わなかった。
意外と気に入ってます。これだったら短編書いても大丈夫かも。
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