2006.1.1 更新
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一言書評
日本の小説・随筆
| 須賀敦子 『トリエステの坂道』 新潮文庫 |
イタリアの小さな街、トリエステ。詩、絵、海、街並み、そこに住む家族や家族ではない人びと。その地に住み、その地で家庭を持った須賀敦子さんの随筆集。 文学や美術、歴史、そして社会に対する深い教養の裏づけと洞察もさることながら、日本とヨーロッパという二つの異なる世界の臨界線上の空気を吸い、自分の人生にもクリアな瞳で向かい合っている姿が魅力的だ。各国の文化も、そして一人の人生も、語り尽くせないし、また語り尽くす必要も無いほど大きな背景を背負いながら紡(つむ)がれて行くのだ、という感慨を受けた。 ご主人・ペッピーノを亡くしたことも、ふとした文中に触れられるだけなのだが、筆者の愛惜の念は、読み手がはっとするほど、静かにしかし確かに伝わってくる。淡々としながらも抑揚があり、べとつかせずに深い情感を伝える見事な筆致。技巧によるだけではなく、須賀敦子という人間そのものが語りかけてくるような安定感は、ほとんど感動的だと言ってよいだろう。 「文体も内容も、この人にとっての随筆はまぎれもなく完成されている!随筆というジャンルは、この人の筆のためにあったのではないか」、と舌を巻いた一冊。すばらしい本に出会えたと思った。(2003.12.12 読了) |