2006.1.1 更新
HOMEに戻る
Literatureに戻る



一言書評
日本の小説・随筆


梶井基次郎  『檸檬』新潮文庫


結核を病み、異常なまでに研ぎ澄まされた感覚の中で、自分を取り巻く世界を見つめる短編集。檸檬を時限爆弾に見立てて、書店に積み上げられている画集の上に置いてみる、という表題作の『檸檬』をはじめ、どの作品も「得体の知れぬ不安」が基調をなしている。名付けようのない不安と同居し続ける中で、透徹した感覚を以て世界が再構成されてゆくかのように感じられる。「桜の樹の下には屍体が埋まっている! これは信じていい事なんだよ」という一節で始まる『桜の樹の下には』のほか、月夜に照らされた海原から、イカロスの障碍(しょうがい)を乗り越えるかのように天に昇ってゆく人物・Kを描いた『Kの昇天』なども収める。ちなみに感覚的に病んだ者と、みずみずしい光彩を放つレモンとの対照は、高村光太郎の「レモン哀歌」をも連想させた。(1987 読了)



HOMEに戻る
Literatureに戻る