2006.1.6 更新
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一言書評
漫画・アニメ



欠けたものを持つ者の温もり

川原 泉


『笑う大天使(ミカエル)


友人から最初に勧められた川原泉の作品。本編の明るいノリも楽しいけれど、三人の主人公それぞれのエピソードを綴った3つの短編に惹かれた。とくに、『オペラ座の怪人』には泣いた。 ちょうど体調を崩して寝込んでいるときに読んだせいもあっただろうけど、枕が濡れるほど泣いてしまった。「友だち 友だち ぬいぐるみ 僕は頑張る! 君も見ていて!」 う゛、いまちょっと読み返してみたら、また泣きそう(T_T) (2000.12.23)



『銀のロマンティック…わはは』


河原泉の中編の中で、一番気に入っている作品。構成もしっかりしててよいし。芸術性とはなんぞや? その問いに答えられなかった二人だが、悲しみを共有した果てにはじめて、表現するべきものが芽ばえた。それが溢れ出して「わは、わは、わはは…」になってゆくくだりは、もう感動ものだった。「来年…来年は無いのだ 無いのだよ 立穴(タチアナ)さん 裏地味る(ウラジミル)君」残されたのはただ一度きりの舞台、二人で滑れる喜びも、もう二度と二人では滑れない悲しみも、その一瞬に結晶するしかなかったのだ。なんてよく描けてる物語なんだろう…… (2000.12.23)



『森には真理が落ちている』



短編の中では、これが一番のお気に入り。突然カメっていう奇想天外さもさることながら、主人公の少女がカメになっても飄々としているところがスゴイ(笑) いちいち動作がおどけていて楽しい。それと、同じ変身譚でも、カフカの『変身』とか内田春菊の『南くんの恋人』のような逃れようのない閉塞感を感じさせず、はじめから何となくハッピーエンドを予感させているところも安心できていい。「雪村さんが好きだから」「カメがか?」「カメでもいい……好きだよ」「ほ、ほんとかよ」ってシーンのほのぼのとした塩梅(あんばい)には、かなり愛おしいものがある。川原泉の他の作品に比べて、男性の主人公が相当遅くまでマンガチックな顔にならないのも、ちょっとした特徴だろう。(2001.1.4)



『メイプル戦記』



野球モノにはすでに『甲子園の空に笑え』があり、その続編とも言うべき長編。女子選手だけのプロ野球チームがあったら、というお話しだ。かつて短編『大地の貴族』にも、バース、ブーマー、アニマル、きよはら、くわたetc.と名づけられた家畜が登場したが、河原泉は結構プロ野球に通じているっぽい。

物語で描かれる野球自体は大ざっぱだが、女性たちを主人公に据えた視点を活かして、夫婦や同性愛の問題(というと大げさだが)も取り込んでいる。

物語のラスト、仁科・夫は、別居中にて敵チームの主力打者の仁科・妻に、渾身の一球を投げる。そこで初めて「夫」と「妻」は対等な一個の人間同士という関係にたどり着けたのだ。また高校の同級生に恋した男は、恋する一念のあまりオカマとなり、女子チームに参加するのだが、紆余曲折を経て、まるでフツーの男女であるかのような距離にたどり着いた。

「夫と妻」、「男同士の恋愛」・・・つまるところ、社会的・生物的な男女というカテゴライズよりも先に、一人一人は独立した人間であって、そうした人間同士の関係を築く事の難しさと尊さ(というと、これも大げさだが)が、仰々しくなく描かれていると言えるだろう。ちなみに怪しげな宗教を頼りにする外国人選手が登場するなど、映画『メジャーリーグ』の影響も窺われる。(2002.1.6)




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