2009.8.9 更新
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Essay (一言書評)
Literature (文学)


サイモン・ウィンチェスター 
『博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話』

訳/鈴木主税 早川書房
 
(あらすじ)
 イギリスが世界に誇る 『オックスフォード英語大辞典』は、編纂に70年の歳月が費やされた。その編纂にまつわる実話に取材した物語。

 英語のあらゆる語彙とその歴史を網羅する事を目指した辞書の編纂には、想像を絶する困難が伴った。その過程で、多くの在野の有志の人の協力を仰いだのだが、マイナー博士もその中の一人。元アメリカの軍医将校だったが、従軍中に精神を病み、後にイギリスで殺人を犯し、後半生を病棟の中で過ごした人物だった。

 病棟の中で多くの書物に囲まれ、孤独と妄想を追い払うように辞書編纂に協力し、それによって自分の存在価値を確かめるマイナー博士。辞書編纂の主幹・マレー博士は、マイナー博士が何者かも知らぬまま20年間も文通を続けていたのだが、二人の篤学の博士の間には、いつしか深く数奇な友情が育まれていった。



 (一言書評)
 ルポルタージュ的な作品で、マイナー博士の経歴やOEDの編纂過程についてよく調べられているだけではなく、辞書そのものの歴史や変遷に関しても踏み込んだ記述がなされていて、その点では読み応えがある。

 辞書の編集室からの問い合わせに対して、すぐに必要な返答ができるほど学のある在野の協力者が、実は精神を病んだ殺人犯だった、という事実は、それだけでも十分に物語たり得るほど刺激的であり、この作品も大いにその魅力を伝えていると思う。

 惜しむらくは、マイナー博士に関して、「悲劇的な」に類するいくらか扇情的な形容が多く冠せられていて、些かチープに感じられる事だ。また、マイナー博士の殺人事件とその後の顛末(てんまつ)、マレー博士との初めての面会については、前半に全て明かされているため、後半はそれを再びなぞるような形になり、いくらか盛り上がりに欠ける観もある。

 とは言うものの、全米で長期にわたってベストセラーたり得たのは、やはり、無味に思われがちな辞書の中から、劇的な人生を送った人間を掘り起こした、という作者の目のつけどころのよさの勝利だと言えるだろう。(2001.7読了)



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