2009.8.9 更新
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Essay (一言書評)
Literature (文学)


カレル・チャペック 『山椒魚戦争』 
訳/栗栖継 ハヤカワ文庫
 

(あらすじ)

 赤道直下の島で、知能を有する山椒魚が棲息することが発見された。トレーニングによって人間の言葉を解し、様々な作業をこなせるようになった山椒魚たちは、瞬く間に人類の労働力として不可欠な存在となる。しかし、各国が競って自国の労働力としようとするなかで、山椒魚たちは連携をとりつつ、やがて人類をも脅かす存在となる。ここに人類は初めて、人類以外の生命体による組織だった挑戦を受ける事になった。



 
(一言書評)

 ナチスのチェコに対する圧力が増大しつつあった1935年にこの作品は書かれた。そうした時代背景のため、作中でも緊迫した世界情勢を揶揄(やゆ)する事件が色々と描かれている。人類を滅亡に追いやる事になるかも知れない一大勢力が現れるわけだが、全編シニカルな語り口で、山椒魚のテロを描くくだりも、どこか滑稽味を感じさせる。敏捷ではなく、愚鈍ですらある山椒魚を主人公に据えた効果でもあろう。中盤以降、報道さながらに情報を羅列する傾向が強く、かえって臨場感や物語の流れを阻害しているように感じられた。そうした衒学(げんがく)趣味的な文体も作者の魅力の一つではあるのだが、若干くどくて退屈に感じられてしまう事もあるだろう。

 人類がますます苦境に立たされる事を暗示させつつ終わるという、ペシミスティックなオープンエンドなのだが、同時に長い時間をかけて人類が活力を取り戻すだろう、という語りもなされており、人類への警鐘であると同時に、永遠回帰的な楽観も匂わせている。国家間の紛争、労働力と資本、環境問題など、チャペックのシニカルな瞳が見据えた領域は幅広いが、或いは作者自身にも、「山椒魚戦争」後の世界観は分からなかったのか、それとも描くには忍びなかったのか。

 訳文に関しては、こなれていて非常に読みやすいと思うのだが、惜しむらくは、不必要に煩雑で長い注が添えられている箇所がある事。訳者が過剰にしゃしゃり出ているように感じられてしまう。注は最小限にとどめて、解題の形でまとめればよい資料になるだろうと思う。

 ちなみに作者はチェコの文学者で、SF作家として有名である。戯曲『ロボット(R.U.R.)』で「ロボット」という言葉と概念を生み出したのもチャペックで、人間以外の生物を労働力として取り入れる、という着眼は、この『山椒魚戦争』にもそのまま受け継がれている。(2000.11.24読了)



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