2009.8.9 更新
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Essay (一言書評)
Literature (文学)
| 阿川弘之 『山本五十六(全2巻)』 新潮文庫 |
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(あらすじ)ロンドン軍縮会議から、連合艦隊司令長官としてブーゲンビル島上空で戦死を遂げるまでを描いた、山本五十六のルポルタージュ小説。対米戦争に反対しながらも、結局踏み切らざるを得なかった当時の情勢を、克明に綴る。開明派で国際情勢に通じ、早くから航空戦の時代が到来する事を見抜きながらも、陸軍との軋轢や、海軍内部での派閥の中で思うに任せぬ様子が、五十六の飄々とした言動の中から浮かび上がって来る。すべて証言や手紙から素材を得ているため、愛人との手紙のやりとりなども多々引用され、等身大の山本五十六が描かれている。 |
| (一言書評)太平洋戦争といえば山本五十六だが、短兵急な愛国者から命を狙われた事もあるほど、開国には極力反対した提督だったのだ。英語に堪能で、海外事情に精通しているが故に、当時の日本の世論とは相容れぬところも多かったのだが、その葛藤が作者の言葉ではなく、膨大な証言や書簡から再現されているところに意味がある。考えるだけ考えた上で、現実に自分の身の上に降りかかってくる職務には全力を尽くす、という、いわば古武士のような恬淡(てんたん)たる心境が、紙面の向こうにほの見えるようだ。作者の阿川氏が海軍に籍を置いた時期があったことも、臨場感を出すのに大きな役割を果たしているのだろう。 作者は膨大な資料の中から、「崇高」であるよりは、より「人間くさい」山本五十六の事実をより多く選択した。村松剛氏があとがきにて曰く「英雄(ヒーロー)を描くのに、反英雄的(アンチ・ヒーロー)な叙述方法をもってしたことになる。そのことは「聖将」の人間像を明らかにふくらみのある、豊かなものにしたが、一方で関係者から不満の声が出ることは避けられなかった。ことに元帥の遺族からは抗議が出て、訴訟問題にまで発展した」とか。また、「阿川の『山本五十六』は、あれは阿川五十六だよと、三島由紀夫が冗談半分にいっていたのが思い出される。「あいつ、自分のことを書いているんだ・・・・・・」」とも言う。 ふと思うのは、やはり徹底した取材に基づいたルポルタージュ小説の体裁をとる吉村昭の小説との対比だ。吉村昭も好きな作家の一人だが、読み終わった後、小説として登場人物がより語りかけてくるのは、やはり阿川弘之の方であるような気がする。しかし登場人物が語りかけてこないぶん、吉村昭の小説は、描かれている事柄が、まるでそのまま事実であるかのように、重苦しいまでの臨場感を伝えてくる。どちらも、丹念な取材を文学の力に転化できているよい例だろう。 ちなみに、三船敏郎と加山雄三が出ている『山本五十六』でも、阿川『山本五十六』が描いてるエピソードを用いていた。(2001.2.4 読了) |
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