2009.8.9 更新
A Rainy Day トップページに戻る

Essayに戻る


Essay (一言書評)
Comic (漫画)


倉多 江美
『静粛に、天才只今勉強中!』
 

フランス革命からナポレオンの帝政にかけての時代、混乱する政局の中を徹底した日和見主義をモットーとして泳ぎ切ったジョゼフ・コティを主人公に描く。月間コミック・トムに5年間連載された、マイナーだがなかなか緻密で遊び心もある長編。

修道院付属学校の教師だったコティがやがて国民公会の議員となり、「つねに多数派」に属し続け、ジロンド派、ジャコバン派と席を移しつつ、テルミドールのクーデターに参加、やがてナポレオンの片腕となるが、ナポレオンの没落後も権勢の中にある・・・なんともすごいのだが、モデルとなった辣腕(らつわん)陰謀家・ジョゼフ・フーシェに比べると、コティはあくまで自分が生き延びる為の日和見主義者に過ぎないように描かれている。

動乱の情報を常に的確にキャッチしながら、その流れに押し流され続けているコティとは対照的な人物として、ストイックな理想主義者・ロベスピエールと冷徹な美の結晶のようなサン・ジェストが配置されている。そのコントラストが明確であるために、ごちゃつく政局の動きを一々把握しきれなくても、物語の進行には差し障りがなく描けているあたりが、この作品を成功させている理由の一つだろう。

橋本治に「水分に乏しい」と評された人物描写にしてもそうなのだが、ロマンチシズムを敢えて前面に押し出さずに、飄々とした中に、時代の大きな流れと一人一人の人間の矮小
(わいしょう)さや苦悩が描き込まれていて、お気に入りの作品の一つ。(2001.6.7)



当HPの文章・写真を転載する際は、
管理人・バルカまでご一報下さい。

A Rainy Day
Since 2000.12

トップページに戻る
Essayに戻る