“デカムリン”の眼瞼等について 2010.2.19 M.Ujihara



千葉県銚子市で毎年越冬し、通称“デカムリン”(または“デカムリアン”)と呼ばれているこの個体は、短い嘴と足、丸い頭、ずんぐりした体型など、全体的にアイスランドカモメ(亜種kumlieni)的な特徴を多く持っている。ただしアイスランドカモメとしては―

・目立って小さい方ではない
・嘴がやや太め
・初列風切の尾端からの突出が小さめ(嘴峰長よりやや長い程度)
・初列風切に暗色斑が“ほとんど”なく、かといって全体のjizzは基亜種glaucoides的ではない。

という特徴が見られる。これら一つ一つはkumlieniの個体差の範囲を出てはいないように思えるが、やはり全体としてはわかりやすいアイスランドカモメとまでは言えず、状況によってはシロカモメとかなり紛らわしい印象に見えることがある。そのためこれまでもアイスランドカモメと断定することは一応避け、主に「(推定)アイスランドカモメ」などとしてきた。

この個体について上記のほかにもう一つ幾分気になる点に、眼瞼(orbital ring)の色がある。この個体の眼瞼の色は野外では「赤」または「赤っぽく」見えることが多いため、欧米の図鑑によく見られる「red」または「reddish」という記述には一致するので特に問題ないかと考えてきた。ただしより詳しく見るとその「赤」のトーンはやや軽く、特に至近距離で見るとかなりオレンジ色のように見える傾向がある。一般に眼瞼についてはよほど条件が良くないと観察・撮影が難しいため、参考になる写真資料も従来は非常に少なかったが、近年クオリティが高くなってきたネット上の画像を見ると、欧米で撮られたアイスランドカモメでは、「赤」もしくは「赤っぽい」といってもオレンジではなくピンク〜紫がかったトーンのものが多く、またkumlieniにごく縁の近いカナダカモメも同様の傾向なので、このあたりは近年少し気になりはじめていた点ではある。

そこで最近この点を含めて、kumlieniの本場、カナダ・ニューファンドランド在住で多数の個体を観察しているDave Brown氏にメールで意見を伺ってみた。その返信の内容を少しかいつまんで紹介すると、眼瞼については「赤っぽく」見える分にはkumlieniとしてOKだが、しかし8割以上の個体はピンク―紫に見え、オレンジ色っぽく見えた記憶はないので、この個体の眼瞼の色はkumlieniの範囲から外れているように感じるとのこと。また虹彩の色が全く濁りのない淡い黄色であるのは、むしろ基亜種glaucoidesに合うかもしれないが、それにしては嘴が太く全体的にも大きいように思うとのこと。この個体が何なのかは正確にはわからないが、もしもkumlieniだとするならば、眼瞼の色や嘴の形状(短いがやや太い)などの点から典型的でない個体だろうとしている。この個体のその他諸々の特徴についての感想は私の感じるところと概ね一致していた。このDave Brown氏のコメントの原文は転載の許可を頂いたのでこのページの最後に貼り付けておく。より詳しく知りたい方は読んで頂きたい。

これまで日本で観察してきた経験からは、亜種barrovianusと思われる小型のシロカモメでも通常はこの個体ほど“アイスランド的構造”には見えない。Dave Brown氏も眼瞼の写っているクローズアップショット(下の画像)を見るまでは(最も淡色の)kumlieniでかなりよさそうに見えたという趣旨の感想を漏らされていた(―下に転載したものの前に頂いたメール)ので、やはり非常に興味深い個体に違いはない。しかし眼瞼の色以外にも冒頭に挙げたようにアイスランドカモメとしてあまり典型的とは言えない点がいくつか揃っていることと、観察地が日本であることも考慮すると、やはり今のところアイスランドカモメと結論付けるのはかなり難しい個体ということになりそうだ。

なおアイスランドカモメとシロカモメの識別については、古くはP.J Grant著 Gulls(1986)に記載された、目の直径と嘴峰長の比、および初列風切の尾端からの突出と嘴峰長の比較を用いた方法が知られている。この方法は両種の基本的な特徴を良く捉えているので現在でも参考になるが、しかしヨーロッパを中心としたこの本の構成や、80年代当時の情報量を考えると、この方法でサンプルとして用いられたのは主に(または全て?)アイスランドカモメは基亜種glaucoides、シロカモメも基亜種hyperboreusではないかと思われるので、現在の日本でのkumlieniとbarrovianusの識別にそのまま適用できるとは限らないという点にはかなり注意が必要ではないかと思う。




“デカムリン” 
眼瞼は左上100116の画像では一見kumlieniとして全く問題のない色(濃い赤)のように見えるが、下段の画像06218では確かに随分とオレンジ色に傾いているように見える。



参考:アイスランドカモメ 亜種kumlieni 第3回冬羽 2009年3月30日 銚子市
昨年3月に2日間観察された第3回冬羽。頭部の羽毛を寝かせた状態でここまでアップにしてしまうと全体のjizzがわかりにくいが、実際は“デカムリン”より嘴が細くて翼も長く、初列風切にパターンの入ったわかりやすいkumlieni。この個体の眼瞼は年齢が若いために鮮やかさにはやや欠けるが、色相は紫味を帯びた濃い赤で、オレンジ色味はない。これならばkumlieniの眼瞼色として典型的と言えそうだ。同個体の他の画像はこちら。



“デカムリン”についてDave Brown氏より2010年2月14日に頂いたコメント
(見ていただいた画像はこちら。)


1) mantle color- seems slightly paler than is typical,but since it is next to Vega Gulls in most photos it should look considerably paler,therefore it is probably well within range for kumlieni,which can be can range from just slightly darker than hyperboreous Glaucous Gull to matching some smithsonianus Herring Gulls. 

2) wing tips- seems unusually pale for kumlieni- I see in one photo that a couple of the outer webs seem somewhat dark,but overall,the wingtips look pure white in most photos. I would say that this is seen in maybe 10% of kumlieni. The vast majority of birds show very noticeable dark markings in the wings. 

3) head shape and bill size- head shape looks ok for kumlieni. The rounded appearance with only slightly sloping forehead is very typical of this subspecies. However, in some photos it does look a bit unusual,particularly in the 4th and 3rd last photos. In these photos,combined with the bill it give an unusual expression,that to me looks perhaps more `Glaucous Gull like`. I will look more for this in the coming days. In terms of bill size, it does look thick in some photos and especially bulbous, yet it looks quite short. In terms of length to looks right for kumlieni ,but may be a bit thick. 

4) orbital ring- I think it`s ok for kumlieni orbital ring to look reddish- but typically I`d say that well over 80% of adult kumlieni have an orbital ring color that would only be called pink-purple. I don;t recall ever seeing orange tones. The last head shot is very troubling for me for Kumlien`s. I have never seen a kumlieni with an orbital ring this pale and I`ve looked closely at many in recent days. I would have to say that my feelings are that this orbital ring color is out of range for kumlieni. 

5) eye color- looks more solidly pale yellow than the vast majority of adult kumlieni,lacking any dark spotting or fringing. However,this eye color might be better for glaucoides subspecies. I`ve seen two definitive glaucoides ssp in the last two weeks and both had eyes,just like this bird. However,this birds bill would seem to be excessively large for glaucoides ssp and perhaps too large overall. 

So, I`m not sure exactly what this gull is. If it is kumlieni,then it is an atypical one,especially in terms of bill shape and orbital ring color.