トラフトンボ
2002.5.12
千葉県
菱などに覆われた植生豊かな沼や溜池で五月頃に見られるエゾトンボの仲間。このような環境自体が珍しくなってしまったためか生息地の減少が著しく、特に関東ではかなり貴重な種になってしまった。大きさと大まかな色彩から、チラッと見ると一見シオカラトンボに似て見えてしまうことがあるが、シオカラにしてはあまりにも飛びっぱなしで、腹端が白くないことなどからもすぐに判る。
この日はあまりすっきりとは晴れそうになかったが、トラフトンボは発生時期が限られるので躊躇しているとまた来年になってしまう、ということで出かけてみた。しかしやはり午前中は曇り空と低温に泣かされ、気配すらなかった。昼前に池を二分する細い道を歩いていると不意に中形の地味なトンボが耳元をかすめ、「トラフ?」と思ったが、そのトンボはあっさり足元に降りてしまった。どうもおかしいのでよく見ると案の定それはシオカラトンボだった。やっぱりこの天気ではだめかと思った瞬間、また傍らを似たトンボがかすめたので、またシオカラかと思ったら今度は水面上を飛びっぱなしだ。よくみるとそれは紛れもなくトラフトンボだった。なんとも紛らわしい登場のしかただったが、その後少し薄日がさして気温が上がるたびに何度も現れた。午後には晴れてきて複数が飛び、隣接するほかの池でも何頭か確認できた。
それにしてもトラフの撮影は難しい。静止して卵塊を出している♀にでもうまく出くわせばいいのだが、この日は見つからなかった。♂の飛翔はオオヤマトンボのように池の縁に沿ってぐるぐる周るのならばもう少し予測がつくのだが、それよりずっと不規則で、池の中央付近を飛ぶことも多く、岸近くに来ても急に角度を変えて遠ざかってしまったりするし、ホバリングもあまり長くはなかった。ムカシトンボならば細い渓流なのである程度自由に足場を確保できるのだが、こういった深い池を飛ぶトンボはひたすら岸からねらうしかないので難しいのも考えてみれば当然だ。今回は曇りと低温のおかげでシャッターチャンスは半減してしまったので、またいつか天気のいい日に挑戦してみたい。
▲トラフトンボの生息環境。菱が見事に水面を覆っている。10年ほど前、トンボの姿を求めて東京近郊の公園や谷戸などの水辺をあちこち適当に周ったが、確かに当時ですでにこんな風景に出会った記憶はほとんどない。この風景を見ただけでもトラフトンボが希少になってしまった理由の一端がうかがえる。そもそも「菱形」という日本語はこの菱の葉の形からきているはずだが、その菱自体が我々とは縁遠くなってしまったわけだ。この一帯は幾つもの池があるが、中には菱のない(なくなった?)池もあり、また一部では水質が悪化しているのか、菱ではなくアオミドロに覆われた箇所もあるのがちょっと気がかりだった。