ムカシヤンマ

2002.6.9 神奈川県

 幼虫は丘陵地から山地の限られた湿地や渓流沿いの泥の中にトンネルを掘って生活する。成虫は大型のサナエトンボ類にもやや似ているが、腹部の互い違いの淡色斑、肩の暗褐色部、黒っぽい複眼など、よくみるとかなり独特な姿なのでたやすく見分けられる。♂は木漏れ日の射す路上や橋の上、石や流木、低木の葉上などにぺたっと張り付くように止まる。時折飛び立って辺りを旋回飛翔もするが、大抵またすぐに降りてしまう。



 ムカシヤンマはその特殊な生活様式のせいもあり、トンボの多い場所に行ったからといって「ついでに見られる」ような代物ではないので、以前は自力で見つけるのは半ば諦めていた。近年になって近県に比較的知られた生息地があるのを知ったのだが、やっぱりもっと近場で見つけてみたい気もして、そこへ行くのもなんとなく躊躇していた。また、つい最近比較的近場の生息地の情報も得てはいたが、どうもそこもあまり確実とは言えないということだったので、結局は自分である程度似たような環境の場所を地図から探して挑戦してみることにした。

 それにしても、いつもながらこうして特定のトンボの生息地を推理しようと地図をみていると、ここ数十年の丘陵地の乱開発ぶりには全く辟易してしまう。ムカシヤンマに関しても、この辺の沢はどうだろう?と思ってよく見たら水源がゴルフ場だったりするとさすがに行く気にはなれない。さんざん悩んだ挙句どうにかよさそうなところをいくつか見つけ、その一つに出かけてみた。

 朝その谷に入っていくと、脇をそこそこ雰囲気のよさそうな小川が流れ、時々ヤマサナエが見られ、カワトンボもとりあえず健在のようだ。この2種がいるということは水がそれなりに綺麗な証拠であり、まずは好感触だ。さらに遡ると突如「ギィ、ギィ」と聞き覚えのある声がし、長い尾を引きずった紫褐色の物体が雑木林の上を飛んでいった。なんとサンコウチョウの♂ではないか。これはさらにこの辺りの自然がそれでもまだ豊かであることを示しているようで、なかなか嬉しい出会いだった。

 これに気をよくして谷をさらに遡るが、沢沿いの道はだんだん細くなって行き、ムカシヤンマのいそうな場所はまだない。しかし、それでもなおも進むと沢に泥が堆積した場所に出た、ここから先は進めなさそうなので、ここがこの谷のラストチャンスか?と思っていると前方を大きなトンボが横切った。その残像を頭の中で反芻してみると・・・ヤマサナエにしては大きすぎる、コオニヤンマにも似ているが確か色が変だったぞ!・・・というわけでムカシヤンマに違いないと確信する。辺りを探すとほどなく葉の上に図鑑で見慣れたムカシヤンマ♂の姿が見つかった。
 



 
 
 


  なんという独特の姿だろうか。サナエにしろヤンマにしろ、複眼は概して緑とか青系の色のものがほとんどなので、この黒豆のような複眼だけでも何とも不思議な雰囲気だ。こんな渋い色合のトンボも他にあまりない気がする。ジュラ紀の原始ヤンマ類の末裔と言われるのもなんとなく納得できてしまった。

 特に山地寄りでは生息地の見つけづらさからして実態が掴めていない面も多分にあると思うが、本種も丘陵地の凄まじい開発によってかなり追い詰められていることは間違いなさそうだ。


 

 

 路上や橋などにもよく止まるというムカシヤンマだが、この個体は産卵場所にうってつけの泥地の周りの葉上や朽木によく止まっていた。そのため足場は悪いし、産卵場所を踏み荒らすわけにはいかないので思うように動けず、撮影にはちょっと苦労した。
 


 

▲そしてムカシヤンマといえばお約束?のこのカット。やっぱりズボンに止まられてしまった(^^)V 
おまけの100KB一点
▲トンボフォトギャラリー