ムスジイトトンボ
2002.7.7 神奈川県

 平地の浮葉植物や沈水植物に覆われたような植生豊かな池に見られ、条件のよく整った生息地では数が多いが、どちらかと言うと沿岸部に多く、分布はかなり偏っている。特にセスジイトトンボに酷似するので、厳密な同定は捕獲して細部を確認することが必要とされる。ただし実際にはある程度環境や地域によって住み分けていることも多く、その点も含め各部の特徴を総合的に判断すると野外識別もあるレベルまでは十分可能とも言える。



 

▲産卵

 典型的な生息地でこのように連結している時は、やはりいかにもムスジはムスジ、という感じがし、感覚的にはそれほど見分けが難しくはないと感じることも多い。大雑把に言って、セスジイトトンボより♂は青みが強く(特に複眼)、♀は褐色味が強い傾向がある。



2001,7,8 東京都
 

 東京周辺のトンボを探し始めたころ、ムスジイトトンボが多産するような池にたまたま行き当たらなかったので、川辺のセスジイトトンボの中に混じっている黒っぽい個体を見て、これがムスジイトトンボなのかと思っていた。しかしどうもそういう個体は♂ばかりで、♀はどう見てもセスジイトトンボに見えるようなものばかりなので、どうも変な気がして長いこと気になっていた。この日たまたまチョウトンボの写真を撮ろうと初めて出かけたこの池では、沢山飛びまわっているイトトンボが♂♀ともほぼ全てこれぞムスジイトトンボ、という感じの個体だったので驚き、そして個人的にはこの日やっと謎が解けたということになる。


▲真っ青な複眼がなかなか美しい。


※捕獲して多くの個体を精査した経験はなく、間近で観察した数もまだそれほど多いとは言えないが、これまでの野外観察から私が感じているセスジイトトンボとの見分けのポイントは以下の通り。
 
ムスジイトトンボ
セスジイトトンボ

 
  • 成熟したムスジイトトンボ♂は複眼が綺麗な水色で、通常オオイトトンボ、セスジイトトンボは体に対して明らかに緑味が強い。この点は唯一遠目から確認できるので、細部が見えない時にまず見当をつけるのに役立つ。普通に成熟した♂なら大多数はこの傾向が当てはまるが、手持ちの本の写真にはセスジイトトンボでも複眼がほぼ水色に見えるものがあり、もちろん逆にムスジイトトンボもある程度緑味のある場合(特に若い個体?)があるのではないかと思う。
  • ムスジイトトンボの眼後紋はかなり小さく「、」状に見え、後頭条はない。しかしセスジイトトンボにも後頭条のない個体がいて、眼後紋の大きさにもかなり変異がある。またムスジイトトンボにも眼後紋のかなり大きめの個体がいるなど、この後頭部のパターンは「一応の目安にはなる」という程度のようだ。
  • セスジイトトンボ♂の腹部第8節に小さな黒斑のある個体が多い気がするが、これも変化があるようでそれほど当てにならないようだ。
  • ムスジイトトンボ♂の肩の黒条の中の淡色条は「、」のようにごく小さく短い。セスジイトトンボではこれが線状に長い。この点は比較的一定しているようで、比較的よいポイントになるようだ。


  • ムスジイトトンボ? 2002.7.6 神奈川県川崎市

     普段クロイトトンボだけがいる丘陵地のコンクリートの噴水池(植物はほとんどなく、珪藻類やゴミなどの浮遊物にクロイトトンボがとまる)にいた。とりあえずオオイトトンボではなく、複眼が緑っぽく見えたのでセスジイトトンボかと思ったが、しかし肩のパターンや眼後紋などはほぼムスジイトトンボのように見える。しかし私の知る限りここはムスジイトトンボの生息する池からは十数キロ離れており、セスジイトトンボの生息する河川敷からはたかだか数キロの距離なので、もしかして実はこれもセスジなのか?という気もし、さすがに難しかった。上付属器あたりがなんとか手がかりにならないものかと思ったものの、あまりに小さいのと、写真では角度や背景との兼ね合いで随分雰囲気が違って見えるので、色々見ているうちに結局よく分からなくなくなってしまった。


     
     「故郷埼玉のトンボ」の松崎雄一さんより、「腹部の先端が心持ち下を向いているように見えるので、ムスジに間違えないと思います」とのコメントを早速頂いた。

     これがセスジだったらこれはいよいよややこしいぞ(^^;)・・・と思っていたので、ひとまず安心した。複眼が真っ青な個体なら迷うこともなかったと思うが、よりによってこういう個体がこんな変な所に単独で現れるとは・・・相変わらずややこしい連中だ(笑)しかしやはりイトトンボも小さな体で結構移動することがあるようだ。この池で増えるような可能性は今の所低いと思うが、環境条件を整えれば意外なところでも繁殖する可能性があることを改めて示しているように思え、なかなか興味深い出会いだった。