バーダー誌2004年1月号にアイスランドカモメについての記事が載っています。興味のある方は読んでみて下さい。この記事に載っているシロカモメまたはアイスランドカモメ?2個体について記事の筆者の方から問い合わせがあり手紙で下記のように返事をしました。この記事の個体をより理解するのに有用かと思いますのでここに載せます。また記事の中には各個体1枚の写真しか載っていないので、他の数枚の写真を参考のためここに追加しておきます。


2003年3月10日

 アイスランドカモメとシロカモメの識別についてですが、東日本、特に銚子付近は実は世界で最もこの2種の識別が難しい地域ではないかと思っています。銚子ではセグロカモメより小さいシロカモメはごく普通で、むしろセグロよりやや小さめの個体の方が多いのではないかと思えるほどです。この小さいシロカモメは♀の可能性もありますが、大部分はbarrovianusではないかと思っています。東日本、特に銚子はbarrovianusの主要な越冬地の一つになっているのではないかと想像しています。アメリカ西海岸もbarrovianusの越冬地といえますが、アメリカ西海岸(東海岸も)ではシロカモメは準珍鳥と言ってもいいようで、かなり数は少ないらしいことから、やはり銚子付近がbarrovianusの主要な越冬地なのではないかと思います。一方、銚子で見られるアイスランドカモメはほとんどが(数はごく少ないですが)kumlieniだと思われ、このことからglaucoidesより大きめのアイスランドカモメkumlieniと小さいシロカモメbarrovianusという、比較的違いの少ない2亜種の識別をしなければならないことになり、銚子でのアイスランドカモメとシロカモメはかなり識別が難しいと言わざるを得ません。しかし、不可能かというとそうでもなく、ある程度慣れればほとんどの個体は識別可能だと思います。
 
 送っていただいた2個体ですが、どちらもシロカモメの可能性の方が大きいと思います。ただこの2種はその時の姿勢、周りにいる大形カモメが大きい個体か小さい個体かなどで印象が変わることが多く、数枚の写真での判断は難しい場合もあります。
 アイスランドカモメについては今まで日本で一般に考えられていたもの(イメージ)と実像とは若干違いがあると思っています。大きさは小さい個体はかなり小さいですが、セグロカモメと同大のものも少なくなく、ヨーロッパの写真でもセグロ大のアイスランドカモメの写真は普通に見られます。barrovianusはセグロカモメより小さい個体も多いので、大きさは識別には有用でない場合も多いと思います。また、セグロカモメより大きいからといってアイスランドカモメの可能性がないとはいえないと思えます。頭の形はglaucoidesでは丸い個体が多いですが、kumlieniは送っていただいたA個体のような形のものも多く、またその時の羽毛の立て具合等々で形は著しく変わるので、一概に角張る=シロカモメ的、丸い=アイスランド的とも言えない面があります。この点ではA個体も必ずしも「角張っているのでアイスランド的でない」とも言えないと思います。初列風切の尾端からの突出は姿勢によって違って見えるのでこれも注意が必要だと思います。またbarrovianusは嘴峰長より初列風切の尾端からの突出の方が長い個体は稀ではないので、これも識別に有用でない場合がかなりあると思います。逆にアイスランドカモメでも嘴峰長と初列風切の尾端からの突出が同じ程度という場合もあり、この識別点も識別の補助にはなるが決定的なものではないと思います。特にkumlieniはあまり初列風切が長くは見えない個体がかなりいます。
 B個体は翼を半開きにして動かす(脂をのばすため?)羽繕い中によく見られる動作をしているところのようですが、この状態だと頭の羽毛を極端に立てることも多いので頭は丸くなり、また翼が後方にずれ気味になって初列風切の突出も大きくなる傾向があるので、この写真からはこの個体がアイスランド的かどうかは何とも言えないように思います。
 
 アイスランドカモメは全てを総合して判断しなければいけないと思いますが、重要と思うのは次の点です。
 重心が低いー足が短く、極端に言えばゾウゲカモメのような感じに見えるという点です。この辺りのバランスは、あまりアップで細部をじっと見ているとかえって判りづらくなったりしますが、野外ではぱっと見で奇妙に重心が低い印象が意外によく目立つことが多いように思います。ただ羽繕いをしている時とその前後などは、シロカモメでもかなり脚が短く、重心が低いように見えることもあるので、その個体を継続して観察しないと正確なことがわからないこともあります。またもちろんその時周囲にいる個体や並び方によっても様々に印象が変わります。
 ずんぐりとした体形ー全体に寸詰まった感じで、特に首は短く見えます。シロカモメもA個体のように首を縮めている時は似て見えますが、首を伸ばすと驚くほど長くなりシロカモメと判ることも多いです。
 嘴の大きさー嘴の大きさはやはりかなり重要な識別点になります。ただこれもその時の頭の羽毛の状態や見る角度などで印象が著しく変化して見えるので、数枚の写真からはなかなか判断しづらいこともあります。やはりbarrovianusにはかなり嘴の小さい個体がいます。

 この写真は同じ23日に知人(渡辺義昭氏)がA個体(右)とB個体(左)を少し左の位置から撮った写真です。これを見ると両個体とも重心がやや高く感じます。特にA個体は高いと思います。
特にB個体は小さく、嘴もかなり小さいのでkumlieniとの差はほんのわずかだと思え、その違いを説明するのはかなり難しいですが、全体の印象はやはりシロカモメのように思います。

(手紙ではこの後、海外の写真などをプリントしたものに添えてアイスランドカモメglaucoides、kumlieniについて説明を加えてありますが、それらの写真をここに無断掲載するわけにはいかないので、この後は省略します)
 
 
 
 
 
 


記事で問題とされていた2個体の別の写真
記事では2003年2月23日に撮影されたA個体、B個体を取り上げている。A個体は前日に私(氏原巨雄)と渡辺義昭さんが撮影しており、B個体は同日渡辺義昭さんが撮影しているので下に載せます。

A個体(シロカモメ)


記事の中の写真ではもっと体を丸めた状態だが、前日に撮影したこの写真で見ると嘴は明らかに長く、アイスランドカモメと疑われる要素は全然見られない。2003年2月22日、撮影・氏原巨雄

2003年2月22日、撮影・氏原巨雄

2003年2月22日,撮影・渡辺義昭氏


B個体(たぶんシロカモメ barrovianus)

2003年2月23日,撮影・渡辺義昭氏


参考:2003年に銚子で撮影されたアイスランドカモメ
 
第4回または第3回冬羽 2003年1月3日 撮影・渡辺義昭氏 第2回冬羽 2003年3月18日 撮影・氏原巨雄


成鳥冬羽と推定される個体(中央、左は記事のシロカモメA個体)2003年3月11日 撮影・氏原巨雄