‘肩羽の境目’について   
2005.2.4 M.Ujihara

大型カモメ類の幼羽は、巣立ってから時期が経つにつれ上背や肩羽が新羽に換羽していき、そして幼羽のままの雨覆は磨耗していく。結果として肩羽と雨覆の間で色や磨耗状態に差ができることがよくある。オオセグロカモメ、モンゴルカモメ、カスピキアシセグロカモメその他、南寄りで繁殖する種/亜種ではこの状態が秋〜初冬の早い時期から顕著に現れやすく、逆に換羽・磨耗が遅く真冬や春先でも幼羽に近い個体が普通に見られるセグロカモメvegae(繁殖地は北極海沿岸)との識別の目安になる場合がある。


<11月19日 酒匂川 オオセグロカモメ Larus schistisagus

この写真はその最も典型的な例で、肩羽と雨覆が互いに色も質も全く違うもののように見え、両者の間に‘境目’ができている。「甲羅を背負っているような」感じにも見えるかもしれない。セグロカモメでは換羽・磨耗がずっと遅く、11月にこのような状態になっているのは観察した記憶がない。そのためこのようなオオセグロカモメはセグロカモメの新鮮な幼羽と並ぶと全く印象が異なり、その場合かなりよい見分けの目印になると言える。このような個体が多い日には、それだけでいつも見分けられそう?にすら思えることもある。

しかし実際には、少なくともオオセグロカモメを観察する限り、
この特徴が出るか出ないかは個体によって全くバラバラこの画像のような個体もいれば、肩の換羽が進まないまま磨耗だけが進んで全体がボロボロになっているもの、逆に冬半ばを過ぎてもきれいな幼羽のままの個体など、全くどのタイプが多いとも言えないことも多い。従って、オオセグロカモメに関しては、この特徴だけに注目してしまうと、識別はかなりおかしな方向に行ってしまうことになる。

となると、日本では個体数が少なく、オオセグロカモメよりは不明な点もずっと多いモンゴルカモメ(mongolicus)の場合果たしてどうなのだろう?モンゴルカモメの北寄りの最大の繁殖地であるバイカル湖地方は、もちろん北極海よりはかなり南ではあるが、しかし世界の気温分布を見ると実は大変な寒冷地で、4−5月まで結氷しているようだ。また南限付近とは緯度だけとっても相当な開きがある。カスピキアシセグロカモメ(cachinnans)や地中海のキアシセグロカモメ(michahellis)などとはかなり事情が違ってきそうに思うし、北方のものではかなり換羽・磨耗が遅くなる可能性は十分ありそうに思う。また加えて越冬地の気候も換羽と磨耗の進行に影響することは十分考えられる。そしてまた何事にも個体差はかなりあるのが大型カモメの常だ。

冬季に換羽・磨耗の遅い(肩羽の境目のない)モンゴルカモメと思えるものが観察されることはしばしばあるが、これを「換羽・磨耗が遅い(肩羽の境目がない)からモンゴルカモメではない」と決めるのは明らかに早計だ。また、巣立ち後いきなりこの‘境目’ができるわけでもないので、ではどの時期までなら境目がなくていいのか?という疑問も沸いてくる。しかし、もちろん
磨耗と換羽が早ければ早いほど、セグロカモメ(vegae)とはかけ離れていて見分けやすいことは間違いないので、遅いものをモンゴルカモメと断定するのをある程度慎重に考えるのは(特に日本では「普通種」ではないことも考えれば)方向性として間違ってはいないと思う。またセグロカモメの個体差の可能性も考慮しなければいけないのも当然ではある。しかし一方で、変化の多い大型カモメにおいて、モンゴルカモメの特徴だけを必要以上に狭い範囲のイメージに限定して考えてしまうのもかなり問題があることも間違いない。従って、その人の個人的な典型イメージ外の個体を称して「にせモンゴル」などの呼び方も、個人や内輪で使うのなら別段構わないのだが、私はあまりいい表現とは思わない。もっとも、その表現に該当してもおかしくないような、様々な程度に難解な個体がしばしばいること自体は全く否定はしないのだが。ちなみに、モンゴルカモメはカスピキアシセグロカモメとは異なり、雨覆の幼羽も肩羽の新羽も地色が共に白っぽく、換羽していても遠目には換羽していないように見えることもあるので、この点は観察の際には少し目の訓練が必要な所だろう。

ただ実際私自身も、2000年代になって換羽や磨耗に関する情報量・観察経験が急激に増えてからは、換羽や磨耗の早い「わかりやすい」もの以外はあまり簡単には断定的に扱わない方向にはしてきているのは事実だ。しかし同時に、これもあまりやりすぎると、モンゴルカモメのイメージをいたずらに限定的なものにしてしまうのに加担してしまわないだろうか?という疑問も常々感じている。もちろん、この問題は別段結論を急ぐ必要も全くないし、いつか「全ての個体を見分けられる方法」が見つかるとも初めから思っていない。しかしいずれにしても興味深いテーマには違いないので今後も注意深く見ていくつもりだ。もちろん磨耗や換羽のみならず、プロポーションの傾向や色彩や模様などのあらゆる特徴の観察が非常に重要で、‘肩羽の境目’ばかり殊更注視するのではなく、常にこれら全てを合わせて考えていきたい。


折角なので、参考までに12月のサンフランシスコのアメリカオオセグロカモメLarus occidentalis)の観察経験を紹介する。観光地で有名なフィッシャーマンズワーフを少しづつ歩いて見ていきながら、初めは「さすがに南寄りの種だけあって殆ど磨耗・換羽の随分早い個体ばかりなのか・・・」と思っていた。しかしある地点から幼羽に近い個体が次々出てきてしまい「あれ?やっぱりそうとも限らないか・・・」という結論になった。もちろん平均すれば日本のセグロカモメ(vegae)より明らかに早いのは間違いなかったのだが、つまりこんな風に、種/亜種ごとに傾向は明らかにありつつ、しかしそう一概にも言えない、これがカモメの常であり、また面白いところでもあると思う。いずれにしても、一つの特徴だけにあまりクローズアップしすぎない方が間違いが少なくなるのは確かなことだ。



‘肩羽の境目のある’アメリカオオセグロカモメ

‘肩羽の境目のない'アメリカオオセグロカモメ
 

左右共に1999年12月2日 サンフランシスコ
ことによると全然別の種のように見えるかも?しれないが、もちろん両方とも100%間違いなく同年齢のアメリカオオセグロカモメ。もちろんこの2つの中間的なものも沢山見られた。また右の個体より幼い新鮮な幼羽個体も観察した。アメリカオオセグロカモメの場合、換羽の早い種なので、左の写真のような個体が‘典型的’とは言えるのかと思うが、やはりこの点ばかり殊更注目すると、識別はしばしば全くおかしなことになってしまうだろう。


 

以下は全て2004年1月13日銚子で撮影したオオセグロカモメ。


▲肩と雨覆に明らかな‘境目’。雨覆はボロボロ。
これがセグロとの識別点、と言いたいところだが・・・↓→

※平均すればセグロカモメより早いのは間違いないが、換羽も磨耗も状態は様々。オオセグロについてよく知られていない国の人が、仮に左上の個体を典型として一度限定してイメージしてしまうと、それ以外は以後オオセグロとは呼んでもらえない、かも・・・・?「やっぱりオオセグロは早い!」と思う日もあるかと思えば、幼羽に近いものがぞろぞろ並んでいて仰天する日もある。