カザフキアシセグロカモメ(brabensis)の嘴の黒斑について  2005年 4月 M.Ujihara

日本では、嘴に明瞭な黒斑のある大型カモメ成鳥について、「barabensis(カザフキアシセグロカモメ)ではないか?」などとしてしばしば話題になることがある。しかしこれまでのところ、私はbarabensisとして納得できる個体の写真を目にしたことはほとんどないといっていい。最近も話題になっている例があったが、それもホイグリンカモメ(heuglini)もしくはホイグリン系の3〜5年目?あたりのやや若い個体で全く問題はなく、特にbarabensisらしいところがあるようには思えない個体だった。


●大型カモメ一般に言えるが、嘴に大きな黒斑がある個体を見かけた場合、まずは以下のような特徴を併せ持っていないかチェックすることが重要。

(1)初列風切先端の白斑及びミラーがかなり小さい(もしくはない)
(2)脚が黄色いはずの種/亜種の場合、脚の色が曖昧な地味な色か、もしくはピンク
(3)頭の斑が同時期の成鳥より多い
(4)初列雨覆や尾羽に黒斑がある
・・・など

これらの特徴の多く(たとえ全部ではなくても)が揃っている場合にはやや若い個体の可能性は高く、そうすると何であれ嘴に大きな黒斑があっても何ら不思議はないということになる。ここではあえて言葉で一つ一つ特徴を挙げたが、実際には横向きで立っているカモメをぱっと見た段階でこれらの特徴の多くは同時にに目に飛び込んでくるので、慣れればその時点で「若い個体ではないか?」と感覚的に見当がつく場合が多くなると思う。

またそれ以前に、嘴の黒斑自体、実はそれだけでは全く当てになるポイントではなく、他の特徴とセットで揃っていて初めて参考になるという程度のものだと思う。オマーンで観察した経験では、ホイグリンカモメも日本で見るセグロカモメ(vegae)よりは嘴に黒斑が出る傾向は強く、かなり大きな黒斑のあるものもよくいる。また、逆にbarabensisは1月半ばですでに夏羽になっている個体が多く、その中には嘴の黒斑がほとんど消えかかったような個体もいた。つまり平均するとbarabenesisの方が黒斑がしっかりあるイメージは強いかと思うが、晩冬から春にかけては(カモメ類一般に夏羽では嘴の黒が減る傾向があるので)むしろ逆にホイグリンカモメの方が黒斑が目立つ場合も多い。ちなみに虹彩の色もbarabensis, heugliniとも個体差が多く、特にポイントにはならない。

というわけで「嘴に大きな黒斑」=「barabensis?」と考えるのではなく、年齢や時期も考慮しつつ、必ず複数の特徴の組み合わせから総合的に考えるようにしたい。1月のオマーンのホイグリンカモメ群中での観察では、barabensis

(1)背中の色が淡い(vegaeと同じか僅かに濃い程度)
(2)多くの成鳥で頭が真っ白 
(3)脚と嘴が鮮やかな黄色 


という点で比較的簡単に見つけられ、
嘴の黒斑や虹彩は全く役に立たないといってよかった。逆にもし仮に嘴の黒斑に頼ってしまうと、他の特徴との脈絡がなくなり、識別はかなり滅茶苦茶になってしまうと思う。また、頭が白いという点に関しては、中東では気候が温暖なためにより早く夏羽になっているとう部分がある?という可能性も一応想定してみる必要はあるが、しかし同所で越冬するホイグリンカモメは別段早くはないので、単に越冬地の気候の影響だけで早く夏羽になっているとは考えにくい。まして日本で3月末あたりに顔にしっかり斑の入った個体をbarabensisとするのはかなり無理があると思う。

何よりも、日本ではホイグリンカモメ、及びホイグリン系個体'taimyrensis'(―背の色などbarabensisに似る)のやや若い個体の可能性、あるいは頭の白い個体の場合は分布が近いmongolicusの可能性を考えるのがまず先で、かなりよく特徴のよく揃った個体でない限りbarabensisと見なすのは難しいだろう。また、翼や脚が長いというのもホイグリンカモメにもある程度言える傾向なので、セグロカモメよりいくらかこの傾向があったとしてもそれだけでは必ずしもbarabensis的とは言えない。これまでの日本と中東での観察経験、及び繁殖分布から考えても、基本的にbarabensisの日本への渡来は非常に稀と考えていいと思う。

こんな風に文章でだらだら書くと難しく見えるかもしれないが、実際はホイグリンカモメとbarabensis成鳥の識別自体は多くの場合そんなに難しいわけではない。実物なり写真なりを数多く見て目を養うことでかなりの部分は解ってくると思う。


2005.1.13 オマーン
中央の頭の白い個体のみbarabensis
, その他は全てホイグリンカモメ(heuglini

手前のホイグリンカモメの方がむしろ嘴の黒斑が大きいことい注意。


ホイグリンカモメ Larus heuglini  2005.1.15 オマーン


ホイグリンカモメ
 Larus heuglini  2005.1.15 オマーン

カザフキアシセグロカモメ barabensis(右)
左はホイグリンカモメ 2005.1.15 オマーン

さらに
barabensis