静寂、そして……




「……落ち着きましたか」
「……はい」
弥生の言葉に、みさきは低い声で、小さく返事を返した。
泣いて、泣いて…どれほど涙をこぼしたのだろう。
光を失った瞳からは、すでに何の感情も見えてはこなかった。
「川名さん……辛いでしょうけど、いつまでもここにいては……」
「………わかってます」
静かに立ち上がると、みさきは見えない瞳を閉じた。

忘れないでおこう。親友の声も、親友の匂いも、髪の感触も……その暖かさも。

「死は……むしろ、残された生者にこそ、過酷なのかもしれませんね」
ぐすっ、と座敷童が、鼻をすする。
弥生は、冷たく、硬くなった雪見の身体を抱えると、そっと周囲を見回した。
残念ながら、たった二人で、道具もなしに人を埋葬できるだけの穴を掘れるとは、思えない。
それに、そんな時間もない。
「川名さん……雪見さんの身体は……」
「海に……海の中に沈めて下さい」
「それしか、ないですね……」
海の中に入り、雪見の身体を、そっと突き放す。
やがて彼女の身体は、静かに波間の中に消えていった。
「……終わりましたよ……」
「はい」
静かな…静か過ぎる彼女の声に、弥生は訳も無く震えが走った。
ひょっとしたら、彼女はこの先、二度と笑うことは無いのではないか……そんな予感が。

「空模様も怪しくなってきましたし、どこか雨宿り出来る場所を、探しましょうか…」
弥生の言葉に、みさきは頷いて、一度だけ海岸を振り返った。
「さよなら……雪ちゃん」

その声に、弥生は背筋に冷たいものを感じた。

(由綺………あなたは、今どこでどうしているの?)

同じ、「ゆき」に……弥生は不吉な影を見ていた。
「どうか、無事でいて欲しい……もう一度、会いたい……」

それが、二度と叶わない願いだと……
彼女は知る由も無かった。



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