Chase!



「ヒロくぅ〜ん……歩きつかれたよぉ〜〜」

ティリアたちとであって既に1時間。
浩之たちはいつ辿りつくとも知れぬ武器博物館に向かって歩みを進めている……
……本人達はそのつもりである。
「浩之……近くに施設は無いのか?とりあえず雨がやむまでそこで休もう……」
「……そうだな。流石にヒザがそろそろヤバい……ん、おい皆の者。天の助けじゃ。」
浩之の視線の先には、一台のジープ。
「もしかしたら走るんじゃないかな……とか。」
「ガソリンが切れてるから放置してあるんでしょ?」
「……むう。」

「……ちょっと詰め込みすぎたか?」
「……人をモノみたいに言わないでよ」
本来、多く詰めても五人乗りのジープに八人乗るのはいささか無茶だったのかもしれない。加えて……
「ヒロくん、よく座れるね……」
後部座席に一部、おびただしい血痕が残っているのだ。
そして、そこにちょこんと鎮座ましますは長瀬祐介その人である。
「贅沢はいってられないでしょ……ピッケ、君も来るかい?」
ピッケにしてみればそれは恐ろしい提案であったらしい。目に涙を溜めて、ぶんぶんと首を振った。
その時、エンジンがうなりを上げる。
「おお、ガソリンメーターゼロでもエンジンってかかるものなんだな。」
「浩之ちゃん、すご〜い」
「あかりさん……さりげなく一人助手席に座るアナタは只者ではないですね……」
恨めしそうな声で、エリア。
「さーてと。出発出発……と……!!」
サイドミラーの映るものを見て血相を変えた浩之がエンジンを踏み込むのと、
禍禍しい鳥の鳴き声が背後から聞こえるのはどっちが速かっただろうか?。



「な、なに?なになに!?」
突然の出来事に混乱する沙織と、対照的に落ちついた異世界の住人3人。
後ろから迫る巨大な鳥の影をにらみつける祐介と、あわただしくハンドルを動かす浩之。
ピッケは……早々に沙織のジーンズのポケットに隠れたようだ。
「あかりっ!博物館はどっちだ!」
ハンドルを握る浩之が怒鳴る。
「えっ!え、えと!」
沙織同様に混乱状態にあったあかりは、その一言で何とか自分の役目を認識し、手元のパンフレットに視線を落とす。
「つ、次の道の曲がり角を左!」
聞き終わる前に、浩之はさらにアクセルを踏み込んでいく。かなりのスピードで、風景が背後に流れていく。
また、ギャースと後ろの鳥が声を上げた。
「グリフォンかしら?」
「そのようね」
ティリアとサラは既に臨戦体制に入った。
「来る!」
ばさばさと羽音をうならせ、グリフォンと呼ばれた生物がスピードを上げる。
子のようなすし詰めの状況では、剣を振り回す事などできないし、鞭を飛ばす事もできないだろう。
頼れるは、魔法か。
二人は、呪文の詠唱に入った。
------パリンッ!
「!」
グリフォンのスピードが予想外に速い!車体背面のガラスを突き破ったグリフォンの嘴は、沙織の髪の毛をくわえ込む。
「キャッ!……いた、いたたたた!」
そのまま沙織をひきずりおろそうと考えたらしい。髪の毛をくわえたまま、グリフォンは徐々にスピードを落としていく。
このスピードで走るジープから外に放り出されようものならいくらなんでも命はないだろう。
高速で流れていく地面の恐怖で、沙織の背筋がぞくっ、と凍る。

「く!団体さんが歩いてやがる!」
フロントガラスを見つめる浩之がいまいましそうにつぶやいた。
「どいてくれぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」
窓から身を乗り出して発した彼の怒声は、担架で運ばれる怪我人を含めたその団体さんの耳に届いたらしい。
しかし、それは後ろにいる敵の耳にも届いてしまったらしい。その声に驚いたのか、グリフォンがびくっ、と身を震わせる。
「あうっ!」
その反動で、さらに沙織が引っ張られる。ひときわ激しい苦悶の表情を浮かべた。
「沙織ちゃん!」
沙織のすぐ隣にいるにもかかわらず、祐介は動けずにいる。
電波の射程内ではあるが、今ヘタにグリフォンに干渉しようものなら、グリフォンは倒せても沙織は落とされてしまう。
しかし、引っ張られる沙織を押さえつけても、沙織の痛みが増すだけだ。それはできない。
「っっっっっっ……!……ゆ、祐くん、助けて……」
既に、声にならない声を上げながら、それでも沙織は祐介に助けを求める。
ティリアも、サラもこの状況では魔法を放つに放てないようだ。苦々しい表情を浮かべている。
「スピード落とすか!?」
浩之が声を上げた。
「駄目だ、うかつにスピードを落としたら突っ込まれてやられてしまう。そのまま走ってくれ。」
「ちょ、ちょっと祐介さん……!」
エリアが非難、ととれる口調で言う。
「いいんだ。考えがある。」
言って、祐介はバッグから小ぶりのナイフを取り出した。
「沙織ちゃん、ごめんっ!」
そう叫んで、祐介は沙織の頭にまっすぐナイフを振り下ろす--------!



不意に自分の嘴を支えていた力がなくなったグリフォンは、無様にバランスを崩し地面に落ちる。
その瞬間、グリフォンとの距離は猛スピードで遠ざかっていく。
ぱらぱらと、沙織の髪の毛が舞った。ナイフは、沙織の髪を切るために振り下ろしたのだ。
しかし、グリフォンはまたすぐに身を起こすと、今度は祐介めがけて突進してくる。
「これだけ距離があれば!」
サラの放った氷の刃が、グリフォンの口の中めがけて疾風る。それは、口の中から頭部までを確かに貫いた。
ドカッ と言う音が響き、直後グリフォンの叫び声が響き、ズシン、とグリフォンは墜落した。どうやら、もう動かないらしい。
車内に、安堵の空気が流れた。



さらにしばらくジープを走らせたあと、浩之は車を止める。どうやら本当にガス欠らしい。
一仕事追えた表情のサラ。沙織に回復呪文を唱えるエリア。心配そうに沙織を見つめるピッケとあかり。
安心からか、髪形が変わってしまった悲しみからか、泣いている沙織。
そして、気まずい祐介。
ついでに、詠唱してしまった呪文のやり場に困っているティリア。

その……ごめん、沙織ちゃん」
「……髪の毛の事?」
その声はとても静かだった。表情は、あいにく祐介からは伺えない。
「……うん。」
「……しょっく。」
「!…………」
「ここまで伸ばすのに半年かかったんだよぉ……なのに……祐くんったら……」
言って、またさめざめと泣き出す沙織。祐介にもう少し周りに気を配る余裕があれば、その泣きの真意に気付いたかもしれない。
「ご……ごめん、本当にゴメン!」
「……(ぷぷぷ)」
うろたえる祐介には、誰かが発した含み笑いにも気がつかない。
「ご、ごめん……なんでもするから……」
「なんでも!?」
その言葉を聞いた瞬間、泣くのをやめ、むしろ歓喜の声を上げた沙織を見て、祐介はようやく「しまった」と思った。

「……ったく。さて、車内でラブコメやってる二人と野次馬はほっといて、だ……」
まあいいんだけどよ。と、浩之が洩らす。
「さんざ遠回りした結果、俺達はようやくここにたどり着いたわけ、だ……」
浩之と、あかりと、およそ車内で起こっている出来事に興味のないサラは、自分達の目の前に建つ建物を見つめた。
「こんなにデカい建物だとはなあ……」

[武器博物館にようこそ]



【藤田浩之様ご一行、紆余曲折の末武器博物館に到着】
【沙織、ショートヘアに】




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