深い森


「あっ!」
「あ、由依ちゃん。気がついた?」
「え、あ、はい」
 由依があたりを見まわすと、そこは見なれぬ森の中だった。
「良かった……。心配してたんだよ」
 由依が元気なのを確認し、女性が微笑む。
 黒い髪がとても綺麗な、落ちついた雰囲気の女性だった。
 名前は確か、きよみと言っただろうか。
「すみません……」
「ふふ、いいのよ。私だって、気を失ったあなたを見ている事しかできなかったんだから」
「そうですか」
 お互いに微笑みあう。
 が、ふとある違和感に気付いた。
「あれ? お姉ちゃんは?」
 確か葉子さんが姉と一緒に行けばいいと、一枚だけ余ったチケットをくれて。
 そして同じジープに乗って、変な放送が流れて……
 そこで記憶が途切れていた。
「残念ながらどこにいるかはわからないの。私達はジープから投げ出されてしまったみたい」
「はぐれたんですか?」
「うん……」
 きよみが悲しそうに頷いた。
「じゃあ、早く合流しないとまずいですよね!」
「え?」
 意識が完全に回復してきた由依は、すっくと勢い良く立ちあがると大声を張り上げた。

「お姉ちゃぁぁ〜〜ん! どこにいるのぉ〜〜っ!」
「ちょっ!」
 きよみも焦って立ちあがると、由依の口をふさいでしまった。
「もっも、もめぇあんあがああかっ!」
「ちょっと、静かにしなさいよっ!」
 さっきまでとは違うきよみの声に、由依もわけがわからないまま黙るほかなかった。
「いい? なんでかは知らないけど、ここには強暴な怪物がうようよしているの。
 もしも下手に大声だして奴らに気付かれでもしたら、どうなるかわかるわよね?」
 由依は面食らった表情のまま、こくこくと頷いた。
 それを確認してから、きよみはゆっくりと口を塞いでいた手を離す。
「ふはぁーっ」
 少し息苦しかったからか、緊張感から開放されたからか、由依は何度か大きな深呼吸をする。
「あ、さっきはすいませんでし、た……?」
 由依が振り向くと、きよみは険しい表情で地面を見つめたまま黙り込んでいた。
(犬飼に誘われたから着て見たけれど、まさかこんなことに巻き込まれるなんてね……。
 でも、私はまだ死ぬわけにはいかないの。あいつの求める、本物のきよみになれるまで……)
 きよみから発せられる雰囲気に圧倒され、由依はただただ無言で彼女を見つめる事しかできなかった。
 と、きよみが急に我にかえり、由依の方へと振りかえる。
「あ……っ! あ、あの……」
 びくっと肩を一瞬振るわせ、そのまま由依は黙ってしまった。
「うん? どうしたの? お姉ちゃんを探すんでしょ。早く行こうよ」
「え、あれ……? あれ?」
 さっきの雰囲気は嘘のように消え、目の前にいるのはいつものきよみ。
「えっと、どうして……」
「そっちこそどうしたの?」
 本当に綺麗な、優しい笑顔。
「あ、いいえ! なんでもありません。早く探しに行きましょう」
 由依は慌てて笑顔を作ると、きよみの前へ出てとことこと歩き始めた。
(前向きで明るい娘みたいね。本当、憎たらしいくらいあの娘にそっくり……)
 目の前を歩く由依の姿が、一瞬だけ月代のそれと重なった。



【由依・黒きよみ 友里メンバーからはぐれる】
【ジープは友里メンバーの方にある。状態は不明】




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