岩山のコントロールベースに侵入した耕一は、目立った抵抗に遭うことなく基地内部を進んでいた。
進む先の扉が、自動的に開いていく。あからさまに耕一を誘っている。だが、罠と知りつつも耕一は進むしかなかった。
島のどこに居るかも分からない千鶴達姉妹を助けるには、首謀者を叩くしかない。
また扉が開く。と、凄まじい威圧感が耕一に襲い掛かってきた。
以前にもこれと似た感じを味わった事がある。あれはいつだったか。
そこで、声が聞こえてきた。
『ようこそ、柏木耕一。歓迎するよ。私に会いたいなら奥の部屋に来たまえ。ただし、それは君が生きていたら、の話だが』
瞬間、怖気がする程の殺気が耕一を襲う。
やばいっ。
耕一が右に跳んだと同時に、一寸前まで耕一がいた空間に、圧倒的な質量を持ったモノが打ち込まれる。
そこに出現したモノを見て、耕一は思わず声をあげる。
「鬼…」
それは、4メートルを遥かに越える体躯に薄赤い肌、鋭く尖った角、刀の如く伸びた爪を持つ、まさしく鬼そのものだった。
『そう、鬼だよ。君の同類だ。加えると、我が国の歴史上最も凶悪と言われる、大江山の鬼だ。一般的には酒呑童子と呼ばれている。』
まさかこんな形で歴史上の有名人と会えるとは。
『私が本来見たいものは、この極限状況での人間の行動、リアル・リアリティなのだがね。
 同種の化け物同士の戦い、というのもまた一興だろう。最も君は、自分の事を人間だと思いたがっているようだが。』
いちいち癇に障ることを言う。
『それでは、健闘したまえ。』
その言葉を最後に、声は途切れた。
「さて、どうするかな。説得、は通じそうにもないな。」
依然として、鬼は殺気を耕一に叩きつけてくる。いつ襲ってきてもおかしくはない状態だ。
「まだ殺される訳にはいかないからな。恨むなよ!」
耕一は鬼の力を解放。肩の骨がメキメキと大きくなり、シャツが破れた。
太股の筋肉が膨張し、ズボンがはちきれた。
二倍近くに巨大化した手の指先に、刃のような爪が伸びる。
そして、戦闘が始まった。

爪と爪が弾きあう音が、部屋に響く。
(はあ、はあ、はあ。くそっ、このままじゃあ埒があかない。)
戦い始めて10分が経過しようとしていた。耕一と鬼の力量はほぼ互角。
互いの身体には爪が掠めた痕が無数に付いているが、致命傷には至らない。
耕一は柏木の一族の中では最強のちからを持つ鬼だ。耕一が勝てないならば、千鶴や梓では勝ち目が無い。
他にこの島に来ている者で、耕一以上のちからを持つものがいるだろうか。それとも、近代兵器を駆使すれば、この鬼を倒す事もできるだろうか。
その確率は低い。やはり、ここで自分が倒しておかねば。
(とは言っても、どうする?このままじゃあ、体力が無くなって御陀仏だぜ。)
考えている間にも、鬼は耕一に向かって爪を差し出してくる。
「っとっと、危ねえ」
上体を横にそらし、避ける。ぶわっ、と風が耕一の顔を凪ぐ。
(くそっ、しゃーねえ。こうなったら一か八かだ。)
覚悟を決めた。鬼が向かってくる。右ストレートの要領で突き出してくるその爪に対し、耕一は勢いを殺さず自ら飛び込み、
肥大化した左肩で受けた。ずぶずぶ、と鬼の爪が耕一の中に潜り込んでくる。肩の筋肉がぶちぶちと引き千切られていく。
痛みに耐えながら左肩を突き出すと、爪のみならず拳までもが耕一の肩を破っていき、ついには背中側に拳が突き出された。
だが、その時にはもう、耕一の右腕が鬼の胸を突き破り、心臓を破壊していた。
「ぐ……、ぉ……」
断末魔の悲鳴をあげ、鬼は耕一に倒れ込んでくる。
「悪いな。俺もあんたを殺したかった訳じゃあないんだが、守らなきゃならない人達がいるんでな。相討ちってのも駄目なんだよ。」
右腕を鬼から抜き出すと、鬼はどさりと床に倒れ、もう起き上がることはなかった。
「痛い、な。左腕は、もう動かないな。これじゃあ茶碗も掴めない。梓にどやされちまうなあ。」
日常を思い出す。あの家で、また皆と一緒に笑い合いたい。その為にも、今はまだ、休めない。
奥の部屋に居る首謀者を打ち倒すまでは。

奥の扉を開く。すると、パン、パン、パン、と拍手が打たれた。その手の主は、白衣の女性。
「いや、素晴らしい。酒呑童子まで倒すとはね。さしずめ君は源頼光かな。」
「女? お前が、超先生なのか…?」
耕一は、超先生の容姿は知らなかったが、確か男だったと記憶していた。
「確かに私の外見は女性だね。だが、そんなことは何の意味も無い。そして、今の私は、超先生ではなく、朝鮮製なのだよ。
 イントネーションと漢字の違いだね。だが、そんなこともまた、何の意味も無い。」
「お前が、全ての、元凶か?」
「そうとも言えるが、そうではないとも言える。今の私と前の私は少し異なっているようだからね。
では、今度は私が君に質問させてもらおう。君は何故、一人でここまで来たのかね?」
「どうしてそんな事を聞く?」
「純粋な興味だよ。まあ、おおよその察しはつく。自分の力に自信がある。仲間を傷つけたくない。そんな所だろう。」
「なら聞く必要は無いだろう。」
「ふむ。君が自分の力に自信を持つのは分からないでもない。君の身体能力、状況判断力は先程見せてもらったからね。ただね、仲間、
傷つけたくない、この辺りが私には理解し難い。いや、実感できないと言う方が近いかな。頭では分かっているつもりなのだけどね、どうも、ね。」
「お前には、一生分からないよ。」
「そうかもしれない。だが、そんなことは些細なことだ。何の意味も無い。私の目的は、リアル・リアリティの追求のみだからね」
「リアル・リアリティ?」
「そうだ。真のリアリティだ。真のリアリティを求めるには、今の状況は最高だろう?君達が直面しているのは現実以外の何者でもない。
現実逃避は死を意味する。死を避ける為ならば、人間は何だってする。それが、現実。実に、実に興味深い。」
「狂ってる、な」
「それも自覚しているよ。狂っている人間は、目的の為に手段を選ばないものだろう?」
「それも、ここで終わりだ。」
「そうかもしれない。しかし、君は少し遅かったようだ。もう既に何人も死人が出ている。予想よりは少ないがね。
彼らの死も私の研究に非常に役立っている。そうそう、最も残酷な死に方をしたのは、そう、柏木、初音だ。君の家族かい?」

「嘘だ!そんな事、あるはずがない!」
「私は嘘など吐かないよ。確か、獣人達に輪姦された後に、陰部から頭まで串刺しにされていたな。最後まで君に助けを呼んでいたね。」
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
激昂した耕一が飛び出し、その右拳が朝鮮製の胸を貫いた。

「意・^@:po^7・・外.:に、君、・・6^p;:・も短\\]/気・・l:[ui^・、だね。」
朝鮮製の声に、雑音が混ざる。
「機械、だと?」
カチ、という音が聞こえたかと思うと、突如、部屋の床が消えた。
耕一は部屋の入り口に向かって跳躍しようとする、が、朝鮮製が耕一を離さない。
まばたき一つする間に、二人はそのまま一つ下の空間に落ちた。
バシャア。液体が跳ねる。
(これは…、やばいっっ!!)
「そ・;:う5&$ガボッ、液.・;^[体・;p@窒@:/;l・素、ブェ)=#~だ"・%&…」
雑音は益々ひどくなっている。耕一は必死に朝鮮製を振り解こうとするが、既に耕一と朝鮮製は共に凍り始めていた。
(左腕が…、使えていたら、くそっ。千鶴さん、梓、楓ちゃん、初音ty)
そこで、耕一の思考は途切れた。

数刻後。
「さすがの鬼も、−196℃の空間には耐えられなかったようだな。」
その言葉を発した者は、先程まで耕一と話していた朝鮮製と全く同じ姿をしていた。
「いわゆるフェールセーフというやつだな。安全装置は何重にも重ねておくものなのだよ。柏木耕一。君と共に凍っている物は、私のコピーだね。
多少劣化してはいるが、私の思う様動けば問題無い。結局、君の自信は、過信でしかなかったという事だね。そうそう、柏木初音はまだ生きているよ。
安心したかね? ――もう聞こえていないか。」
そう言って、朝鮮製はかって耕一だったモノを、じっと見つめる。
「もう生きてはいないとはいえ、コレにはまだ利用価値があるな。柏木の一族はどのような反応をするだろうな。クククッ。」
暗い笑いを見せ、朝鮮製はその凍った塊を回収し始めた。



【柏木耕一 凍死。凍った死骸は朝鮮製が回収】

【酒呑童子 平安時代、京を跋扈した鬼。源頼光によって討たれる】




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