利己心
先程の建物には、実に様々な物資が置かれていた。
銃器類、刀剣類、弓矢・ボウガン等の武器類に加えて、ボトルの水や乾燥食料、
果てには、手鏡や耳栓、爪切り等の細々した物まであった。
ご丁寧な事に、建物のモニタには武器類の使用法まで記されていた。
超先生とやらの配慮だろうか。有難くて涙が出る。
中には度の過ぎたオカルトまがいの説明も多く、
信憑性の程は怪しいものだったが、銃器の使い方だけは一通り覚えておいた。
(当たり前ではあるが、外部とは繋がらなかったか)
足音を気にしつつ森を歩きながら、久瀬は考える。
一時は混乱していた久瀬だったが、ようやく頭が働き出してきた。
隣を歩く澪をちらりと覗く。まあ、可愛らしい容姿とは言えるだろう。
『ありがとうなの』
建物内で澪の意識が戻ってからの第一声がそれだった。最も澪は喋れないので、スケッチブックに書かれた文字が声の代わりだ。
知り合ったばかりといえ、目の前で二人もの人間が死んでいる。澪の脅えようは相当な物だった。
だが、久瀬が思っていたより早く澪は立ち直り、礼を言った。意外と順応性が高い。
その後二人で話し合い、とりあえず仲間を探しつつ通信設備のある管理施設を目指す、という結論に至った。
話し合いとはいっても、久瀬が自分の考えを述べ、澪が「うん、うん」とうなづくだけであったが。
そして、嫌がる澪に半ば無理矢理、銃・ナイフを持たせ、出発した。
(しかし、何故この期に及んで武器を持つ事を嫌がるのか、理解できないな)
疑問に思いながら歩いていると、くいっ、くいっ、と服のすそを引っ張られる。
「どうしたのかな?」
『あそこに何か倒れているの』
澪が指差すほうを見ると、小さな、爬虫類と思われる動物が倒れている。
慎重に近づく。
「ドラゴン、か」
それは、神話や漫画、ゲームで頻繁に登場するドラゴンと呼ばれる生物に酷似していた。
「まだ子供のようだね。しかし、こんな生物まで…」
主催者の科学力は人知を超えているように思える。魔法でも使ったのだろうか。……馬鹿らしい。
『怪我してるの』
子ドラゴンは、右後ろ足から血を滴らせていた。
(さて、どうするか。目が覚めた時に襲われたら困る。まだ子供とはいえ、火を吐く可能性もある。ここで殺しておくか?)
冷静に考える。と、澪がスケッチブックを差し出す。
『病院に連れて行くの』
「それは駄目だね」
即座に答えると、澪は「どうして」とでも言いたげに久瀬を見つめる。
「そのドラゴンが気が付いて僕らを襲ったらどうする?それに、親のドラゴンがいれば、
僕らが傷つけたと勘違いするかもしれない。そうなったら終わりだよ。さらに言えば、そのドラゴンは流血している。
血の匂いに惹かれた獣達が寄ってくる可能性もある。ここに放っておくか、いっそのこと殺しておくのが最も安全だね。
僕らは今、自分達の安全を第一に考えるべきだ。違うかい?」」
澪は必死に首を横に振る。どうしても見捨てては行けないらしい。
『絶対駄目なの 助けるの』
「どうしてもそのドラゴンを助けるつもりかい?」
「うん、うん」と必死に首を縦に振る。
馬鹿が。
「そうかい。それじゃあ、ここからは別行動だね。僕は余計なリスクを背負うなんて馬鹿な真似はしたくないんでね」
そう言い捨て、久瀬はさっさと歩き始める。
(全く、どうして簡単な理屈が分からないんだ。まあいい。役立たずは必要ない。運が良ければ彼女も生き残れるだろう)
後には、目に涙を浮かべて子ドラゴンを抱きしめる澪が、一人残された。
【久瀬 澪を見捨て、仲間を探しつつ通信施設へ】
【澪 怪我をした子ドラゴンを拾う。久瀬と別れる】
【両名とも、銃器・ナイフ所持】