目覚めと別離と


千堂和樹は飛び起きた。
畜生、なんて夢だ。あたまがくらくらする。
手のひらから、足の先まで寝汗でぐっしょり湿っている。
----締め切りか?締め切りだったのか!?
幸せで、不幸な考えがふとよぎる。無論、それが場違いな幻想である事に気付くまでそうは時間を要さなかった。
島。テーマパーク。モンスター。放送。ジープ。館。パペット。3倍。
最近の記憶が頭の中からよみがえり、今度こそ完全に和樹は目覚めた。
----対策だ。ここからの脱出策を考えているうちに、眠く----
「瑞希!由宇!詠美!」
自分と共にいたはずの人物の名前を呼ぶと共に、目に付いたものからとにかく揺する。
最初に目をさましたのは詠美だった。
「……ヒッ!か 和樹 来ないで お願い!」
そして目を覚ました詠美は、和樹の姿を確認するなり顔色を恐怖のそれに変え、和樹から遠ざかる。
「どうしたんだ詠美?俺だ、千堂和樹だよ!」
「そうよ!和樹よ!!だからお願い、あたしに……って あ……夢……?」
錯乱した声色が元の様子に戻り、詠美はその場にへたり込んだ。
「あ、あたし……寝てたの?あ あはは なによぅ そうよね したぼくが、あんな……」
肩を震わせながら、それでもいつもの調子が戻ってきたらしい。
「ああ、俺達みんな眠ってたみたいだ。俺は瑞希の奴をたたき起こしてやるから、おまえは由宇を頼む」
言うなり、詠美は手近の椅子を頭上に掲げて眠れる由宇に近づいていく。それをどうする気だ、とは聞かないで置いた。



「瑞希、起きろよ。瑞希」
詠美と同じく、瑞希もまた軽く揺すると目を覚ました。
「かず…き…?」
うっすらと目をあけて、瑞希はそうつぶやいた。
「おはようさんみず……どゎっ!?」
「和樹…よかった…和樹…!」
おはようさん瑞希、と言いたかったのだがそれよりも、瑞希が抱き着いてくるほうが早かった。
おいおい、詠美女王様とえらい違いだな。和樹は内心そう思った。
「わ わかったから離れろ……いったいどんな夢みてたんだお前……」
「それがね……あんなに嫌な夢だったはずなのに、覚えてないんだ……」
「……なるほどな。」
瑞希のその言葉を聞いて、和樹も考える。
あれほど寝汗を書くほどの夢だったのに、俺といい瑞希といい夢の内容を覚えてない。
そういえば詠美の様子も何かおかしかったか。どうせ忘れてるとは思うが………
「おい詠美。おまえ、どんな夢見てた?」
返事は無かった。
「……詠美?」
もう一度呼びかける。
「……和樹……どうしよう、パンダが目を覚まさないよう……」
震える声で、やっと詠美はそれだけ声を絞り出す。そして、すべてを聞き終える前に、もう和樹は由宇のもとに駆け寄っていた。
「由宇!おい、由宇!おいったら!」
怒鳴り散らしながら、ひたすら肩を揺さぶる。だが、すやすやと弱々しい寝息を立てる由宇は、一向に目を覚ます様子が無い。
ふと、和樹は由宇の胸の辺りに添えた左手がやけに冷たい事に気がついた。
「……な…んだよ、これ……」
和樹の左手は、いた、由宇の胸には、いつしか真っ赤な染みが広がっていた。
よく見なくてもわかる。血だ。
「ちょっとぉ……いやだよう、パンダ、ぱんだぁ」
目に涙を溜めながら、詠美が声を絞り出している。瑞希も声をかけてはいるのだが……
由宇の寝息はだんだんと弱くなり……ついに、息をする事は無くなった。



「…………!」
「嘘……嘘よね、パンダ……由宇……?」
動かない由宇を詠美に預け、和樹は後ろを振り返る。視線を感じたからだ。
美しい女性が立っていた。近寄りがたい雰囲気ではあるが、日常生活の中においてなら心を奪われてしまうのではないかと言うほどの。
ずっとそこにいたのだろうか。気が動転していて気付かなかっただけなのかもしれない。
「あんたが、やったのか。」
その声で瑞希がその女性の姿を確認した。思わず、きれい という声が漏れた。
「あんたがやったのかよ。」
再び和樹は問い掛ける。女性は答えなかった。
それで和樹の中で何かが切れた。女性にかけより、胸ぐらをつかんで怒鳴った。
「あんたがやったのかよ!俺達がへんな夢を見たのも、その間に由宇を殺したのも、みんなあんたがやったのかよ!!」
それで、館に沈黙が落ちる。
しばらくの間、和樹は女性をにらみつづけていた。詠美も泣きやんでいるらしい。瑞希は……どうしたかな。

間もなく、雨の音が聞こえ始めた。



【猪名川由宇 死亡】
【和樹がつかみかかっている女性は前回の妖精の女王 マブ】




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