Kanon?
四角い部屋の中、季節のない時間の中で、
ボクの時間は、長い間止まっていた。
ボクはずっと、ひとりぼっちだった。
でも、ボクの時間はもう動き出した、はずだった。
「えっ」
目が覚めると同時に、辺りを見回す。
無機質な、四角い部屋。
なんで? どうして? ボクはもう、退院したはずなのに。
頭を触ってみる。カチューシャは、無い。
そうだ、床屋さんで髪を切ってもらって、いっぱい切られて、恥ずかしいから帽子をかぶって、
祐一君にからかわれて・・・。
ふと、横にあるイスに、ボクの帽子がちょこん、と置いてある事に気がつく。
「よかった・・・」
安心し、思わずつぶやく。
落ち着いてきて、少しずつ今の状況を思い出せてきた。
少し髪も伸び、帽子にもようやく慣れてきた頃、秋子さんから誘いがあったのだった。
「懸賞で当たったのですけど、あゆちゃんも一緒に行きませんか?」
それから、島に到着して、祐一君達とは別のグループになって少し悲しくて、それでも楽しんでたら、
突然あの放送が聞こえたんだ。
ああそうだ、その後ジープが暴走して、ボクは放り出されたんだった。
「じゃあ、ここはどこなんだろう」
そんな事を考えていると、ガチャリ、とドアが開いた。
「気が付いたんですね」
三つ編みの、アンティークドールのように整った容姿の女性が入ってくる。
綺麗な人だ。ボクは、可愛いよっ、て言われることはあっても、
綺麗っ、て言われることは全然、まったく、無い。だから、こういう人には少し憧れる。
「えっと、あの、ボク、」
「あなたは運が良いです。もし私達が発見するのが遅かったら、今の状況ではどうなっていたか分かりません。」
胸の名札には、「STAFF 里村」と記されている。里村さんは、続ける。
「幸い大した怪我は無いようですから、心配はありません。ですが、今の状況では外には出ない方が無難です。」
「どうしてですか?」
「この島のモンスター達が、野放しにされているからです。外は、とても危険です」
そういえば、放送はそんな内容だったか。
「じゃあっ、でもっ、ボク、一緒にジープに乗っていた人たちがっ」
「あなたが助けに行くつもりですか」
「うん。ボク、助けにいくよっ」
「無理です。あなたが行っても、途中で死ぬだけです」
「うぐぅ。でも、それじゃあ皆が!」
里村さんは、うぐぅ、とボクが言った所で、一瞬怪訝な顔をする。何かおかしかったかな?
「私達もできる限りの事はしています。ですが、この島のモンスター達は、とても凶悪です。
何の装備も無い一般人では、太刀打ちできません。」
言ってから、里村さんは、僅かに暗い顔を見せる。
「ですから、あなたはここで安静にしていて下さい。くれぐれも、おかしな事は考えないでください。」
そう釘をさしてから、ドアの方へと歩いて行く。
「あ、あのっ」
無言で振り向く。「何ですか」といった雰囲気だ。
「助けてくれて、ありがとうございましたっっ!」
そう言うと、里村さんは、ほんの少し表情を崩して、
「お大事に」
と一言。ドアを閉める。
「笑ったんだよね・・・?」
【月宮あゆ 医務施設にて気が付く。ジープの他のメンバーは不明】