戦闘開始!
ジープは相変わらず爆音をあげていた。
「なんなんだ一体っ! あの放送も意味がわからんっ!」
高槻も相変わらず叫んでいる。
「何かやっかいな事に巻き込まれちゃったみたいだね……」
さすがの月代も不安になっているようだった。
「大丈夫ですよ。蝉丸さんがきっと助けてくださいますから」
こんな状況でも高子は落ち付いていた。
「あの、蝉丸さんというのは……」
さっきの放送後から初めてマルチが口を開いた。
「強くて賢くて、とても頼り甲斐のある人です」
「きっと凄い人なんですね。私もお会いしてみたいです」
マルチの顔に少し笑顔が戻る。
少年には誰だかわからない蝉丸よりも、高子の方がずっと頼もしく見えた。
「はは、僕も一度会ってみたいよ」
「無愛想な方ですから、会っても楽しいかどうかはわかりませんけどね」
苦笑する高子。
それまでの混乱と不安の入り混じった雰囲気が、あっという間に消えていた。
「……」
そんな中、月代一人が厳しい顔をしている。
「どうしたの、月代ちゃん」
「し〜〜。何かが羽ばたく音が聞こえる……」
その言葉に全員が耳をすませたが、ジープのエンジン音が邪魔でとてもじゃないが何かが羽ばたく音なんて聞こえるわけがなかった。
「何も聞こえんではないかっ!」
「待って! 足音は……あっちから聞こえる!!」
月代がジープの向こう側にある森を指差す。
その瞬間、森の木々が激しく動き怪物が数体飛び出してきた。
翼の生えたツチノコとしか形容しようのない怪物である。
そしてそれが鋭い牙を突き出し突進をしてきた。
「うわっ!」
全員が身を屈めると、怪物がその上を物凄い勢いで通り過ぎる。
巻き起こる風の強さに、マルチが軽く飛ばされる。
「大丈夫ですかっ!」
「はわっ、はわっ、はわわ〜」
その場に座りこみ、高子の足に抱き付いて言葉すら発する事のできないマルチ。
――このまま、わけのわからない生物に殺されるのだろうか。
さすがの高子も覚悟を決めかけたその時である。
「いきなりだな。弱肉強食という奴か」
今までの少年とは別人のような表情、そして声。
「お前達に恨みは無いが……」
先ほど通りすぎた怪物が、旋回して再び突っ込んでくる。
そして、怪物の牙が少年の頭を捕らえようとしたその瞬間……
バシュウウゥゥゥゥゥッ
……怪物はそれまでと逆の方向に吹っ飛び、砕け散った。
「な、な?」
月代も高子も目を丸くしている。
「詳しい事は後で説明するよ。危ないから固まってて」
一瞬いつもの表情に戻り少年は言う。
「でもっ! 逃げた方がぁ……!」
「大丈夫ですよ。少年くんはきっと蝉丸さんと同じくらい頼りになると思いますから」
高子はすでに笑顔を取り戻していた。
そしてその高子めがけて、二匹目が飛んでくる。
高子の視界にもその怪物の形相が入っているはずだ。しかし、もう怯えた表情は見せない。
怪物はかなり勢いをつけていたはずなのに、ある程度近づいた途端全く逆の方向へ吹っ飛び、砕け散った。
「お前達が特別嫌いってわけじゃない。ただ人間が好きなんだ、僕は」
そこから先は恐ろしい形相をした怪物が吹っ飛んでは砕ける、その繰り返しだった。
まるでバランスの崩壊したゲームのようだ。
「僕達を襲ったところで無駄だとわかったはずだっ! 意味のない争いはしたくないんだっ!」
少年が叫ぶ。
しかし、怪物は逃げようとはしない。様子を見るかのように周りを旋回しているだけだ。
「く、馬鹿が……」
竜のように見えなくもないので、もしかしたら言葉が通じるかもしれないと思った。
しかし、所詮は遺伝子操作で無理矢理作られた生物。そんなもの通じてはいなかったようだ。
「きゃああああぁぁっ!」
月代の悲鳴。
少年の背後から怪物が突っ込んできていたのだった。
「しまっ―――」少年が慌てて振り向くも、不可視の力の発動が間に合わない。
しかし、乾いた破裂音が響き一瞬だけだが怪物の勢いが弱くなった。
その一瞬。
月代の頭に牙が突き刺さる直前に、怪物が吹っ飛び砕け散る。
「ふん。銃くらい常に携帯しているぞ」
高槻だった。
「ははは、ありがとう!」
嫌な奴だが、今は頼もしく見える。
「やかましいっ! 今はこいつらをなんとかするぞ!」
「そうだね。こんなところで死ぬわけにはいかないし」
【少年・高槻・高子・月代・マルチ 怪物と戦闘中】
【高槻は銃を所持】
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