リアル・リアリティ



「鬼の……力だぁ?」
ジープで、志保が別れた、雅史たちがいるという場所へ向かいながら、御堂は素っ頓狂な声を出した。
「はい。真実かどうかは知りません。ですが、私達は確かに異能の力を持ち、その起源を伝説に
求めれば、一応の説明が付くのもまた、事実です」
淡々とした口調で言って、千鶴は手に巻かれた包帯を外していく。
智子と坂下が、驚きの声を上げた。
骨さえ見えていたような重傷の傷が、今やすでに血は止まり、新しい肉さえ盛り上がってきていた。
「ふぅん、鬼ねぇ……ま、世の中色々あるわな」
「もうこうなってしまったら、信じるしかないわね」
御堂があっさり納得し、坂下も半信半疑ながら、それ以上の追求はしない。
「しかし、なんや凄い事になってきたな、長岡さん……長岡さん?どないしたんや?」
智子に揺さぶられ、志保はようやく、はっと我に返った。
「あ、あ、あたしに何か用?」
ぽかん、とした顔の志保に、智子は呆れた口調になる。
「何か用って、いつもは人一倍喧しい長岡さんが、こう静かやと気になるやん」
「うん……ごめん」
らしくない志保の様子に、さすがの智子も毒気を抜かれ、沈黙する。
「……ゲームバランス……こう上手くいくと、ゲームバランスが……絶対何か仕掛けてくる…」
再び目を外にやり、ぶつぶつと呟く志保。
思わず、千鶴も御堂も、顔を見合わせてしまう。
「どうしたんでしょう、志保ちゃん……」
「どこかで頭でも打ったんじゃねぇの?」
志保の様子に、不吉なものを感じながらも、遠巻きに志保を見ているしかない。
(……ゲームバランス……ゲームバランスを維持するべきだ……消耗戦を……ームマスターは)
「あ………?」
ふと、何か声が聞こえたような気がしたが、御堂は空耳だと思い、黙ってジープを走らせつづけた。

「えっ?」
ぽんぽん、と肩を叩かれ、琴音は顔を上げた。
「……」
「どうかしましたかって…?いえ……何でもありません」
何時の間にか、眠ってしまっていたらしい。
琴音は頭を振って、夢の残滓を追い払い、横に座る芹香に、大丈夫、と頷き返した。
そう、何でもあるはずが無い。自分が、どこかのコントロールルームのような所にいて、
この島中のモニターを監視している、なんてただの夢に決まっていた。そう、ただの……
「ちょっと二人とも、あれ見て!秋子さん、ジープをそこに停めて!」
「了承」
何とかジープを運転していた秋子が、隠れるように、車を太い樹の影に停めた。
綾香がそっと指差す方向に、目をやった琴音と芹香は、その光景に絶句した。
「あ、あれは……」
地響きと共に走るそれは、数百体はいるであろう、凄まじいモンスターの大行進であった。
「どういう事……?今まであいつら、同じ種類で群れてる事はあったけど、こんな行列を作った事なんてなかったのに…」
二本足で歩く植物のようなもの、豚の頭をした人間、一抱えもあるキノコ、人面狼、他にもあらゆる
モンスターが、同じ方向を目指し、突き進んでいた。
「………」
「そうね、姉さん。あたしも怪しいと思うわ。ひょっとしたら、“超先生”とかの差し金かもね」
「………」
「セバスは大丈夫だって。姉さんも心配性なんだから…でも、せめて目的さえわかれば…ね」
「あの人の目的は、ただ一つです」
いきなり声を発した琴音に、綾香は目を丸くする。
「リアルリアリティ……リアルリアリティを追求するのだ……そう、本当のリアルを…」
そこまで呟いて、はっと琴音は口をつぐんだ。
「わ……私今、何を言ったんですか………ま、まるで、誰か知らない人の心が、私の中に……」
泣きそうな顔で震える琴音に、綾香は懸ける言葉を持たなかった。


ざばぁぁ……
池の水を滴らせながら、一人の女が立ちあがった。
異様に広く秀でたオデコ。
黒ブチの眼鏡は、とうに無くしてしまっていた。
みつあみもほぐれ、ざんばらになった髪から、水滴がぽつぽつと垂れる。
「見せてやる。真のリアルリアリティを見せてやる」
太陽の光に照らされて、彼女の凸が、きらり、と鈍く光を発する。
鰐に食われ、死んだと思われていた女は、ゆっくりと立ちあがると、低い声で笑った。
「ゲームマスターとしては公平を期してあげないといけなさそうだ」
その顔、その表情は、もし今、両者を見比べる事が出来るものが居れば、驚きの声を上げただろう。
超先生の記憶と人格をコピーした、もう一人のゲームマスター、朝鮮製。
今、凸を剥き出しにしながら立ちあがる彼女は、その彼女とまったく同じ表情をしていたのだ。

覚醒と呼ぶべきなのか。
解放と呼ぶべきなのか。
彼女を襲ったはずの、鰐の目玉が、きゅい、と小さな作動音を立てる。
人工の鰐は、無機質なカメラアイを凸に向けながら、静かにその場に佇んでいた。
どこかで、聞こえるはずの無い朝鮮製の含み笑いが響いてくる。
「光あれ」
厳かに空を見上げた、砧夕霧の広い額が、眩いばかりの輝きを放つ。
白く光る放射線状に揃えられた光の三原色――砧夕霧の凸にひらめくその光がリアルリアリティを求めていた。




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