(無題)



ゴゥゥゥン
低い重低音が真っ暗な地下室に響き渡った。
ある引き金をきっかけに今まで眠りの中にあったコンピューター達が次々と起動してゆく。
静寂は破られ、起動するモニターの光が闇を押しのけて室内を照らし出した。
 安全第一という名目でテーマパークの中には隅々にまで監視用のカメラが設置されている。
そのカメラからの映像が、壁いっぱいに設置されているモニターの数々に映し出され始めた。
コントロールタワー…もしくは総括管理室の名で呼ばれるこの場所を知るものは少ない。
そこは超先生の名で呼ばれた彼を筆頭に、数えるほどのスタッフにしか存在すら明らかにされていない場所だった。そう、この場所を作り上げた彼らにしか…。
 この島は元々テーマパークとして作り出され、超先生は本社から出向してきた一職員に過ぎなかった。
「伝説上の生きたモンスターをこの目で見れる!」期待を希望に胸を膨らませた彼が初めてこの島へ来、数々の化け物たちを見たときに感じた感情は
「この島にある物は張子の虎でしかない」というものだった。
作り出されるモンスターの数々も遺伝子組み替えで、あくまでも外面だけを似せた実のないもの達ばかり。
ドラゴンは火も吐かず、グリフォンは狩りも行えず、水龍(サーペント)は水から出れば動くことすら出来ない有様だった。
「こんなのは違う! こんなものをモンスターと呼ぶのは僕の矜持とリアルリアリティーが許さない」
そう言って彼は、強い熱意と情熱、そして何よりも彼自身のリアルリアリティーのために熱心にスタッフと本社を説得にかかった。

こんな意見が普通は通るわけはない。莫大な金や思惑が動く世界に個人の甘い夢が入り込める隙間などあるはずがない。……ないはずだった。
しかし、彼はバカだが意外にも無能ではなかったのである。
彼の語る理想に一部のスタッフが共鳴し、リアルリアリティ最優先を掲げたシンパが出来上がると、彼らは彼らの理想を形にして見せた。
巨大な体躯を揺らし、炎を吐き、圧倒的な力を振るうドラゴン。その姿はシンパ以外の人間をも確実に魅了しはじめた。
セキュリティを飛躍的に向上させ、むしろ総合的には以前よりも安全なレベルに安定させる。
カメラを多数設置し、各所に管理ルームを備え、化け物たちを捕獲・無力化させる武器の設置。
枚挙する暇がないほどの仕事を超先生主導のリアルリアリティ派は信じられない短期間でやってのけ、そしてついに上層部からの承認をも取り付ける事にも成功したのである。
超先生は心から歓喜した。身を粉にして自分の理想を通すことが出来た。その喜びでいっぱいだった。
だが、一度過剰に回転させてしまった歯車はイビツに…そして確実に何かを歪めていたらしい。
モンスターというものは檻に飼われているものだろうか?
ファンタジー世界では無類の力を振るうドラゴン。その全てのモンスターの頂上たるドラゴンが人間ごときの見世物になるために閉じこめられている。
それは恐ろしいほどに間違っていないだろうか?
「たとえ伝説上の動物に限りなく近い姿をしているとは言っても、コレはただの見世物でしかない。それは僕の矜持とリアルリアリティーに反しないのか?」
彼は思い悩むことになった。

数ヵ月後、彼はこの島に数人いる彼の協力なシンパ(もはや信者)とともに全ての管理室の機能を一手に握ることが出来る総括管理室を地下に設置することを本社に提案した。
無論そのまま提案したわけではなく、メンテナンスを円滑に行い、さらに万が一の客が対化け物用に設置された火気を目的に管理室に立てこもった場合などの処理にも有効な施設の建設を提案という形で申請した。
ここを占拠されないために場所はほぼ全てのスタッフにも知らせないという条件とともに。
…そして結果は、是。
超先生の一生に一度とも言える実績は本社の信頼を得るには充分なものだったのだ。
 そうして、この統括管理室は設置され秘密裏にテストされた。そして、それ以後は一度も使われていない。本社の許可を得ずして立ち入ることは超先生にすら許されていなかったのだから当然といえば当然といえた。
それからさらに数ヵ月後。イビツな歯車は回りつづけリアルリアリティーに狂った超先生によりシステムは暴走。
特別先行入場を許された103人の男女達が悪夢に飲み込まれつつあるのは耳に新しい話だ。
ヴィ―――ン
総括管理室の一角、巨大コンピューターの一部に偽装されたコンテナが低い駆動音を上げた。
そして、シャッター式にそのコンテナの一部が開いたかと思うと一人の女性のシルエットが明らかになる。
来栖川財閥が作り出したHMXシリーズ。そのシリーズは改良を重ねられ、現在では日本以外の諸外国でも開発が盛んに行われている。
その中でも最近注目を集めだした機体TSS−10という機体があった。ナンバー10とはいえ商品化したものとしてはTSSシリーズ初。この機体は一般に開発国の名前で呼ばれることが多く、現在ではCMでも「朝鮮製ロボ」と呼ばれている。
コンテナから出てきたのは正に、その機体だった。

超先生の脳波停止とともに起動した数々のコンピューターとともに、「朝鮮製」にも電源が入る。
機体に充電が行われ、DVDロムが読み込まれる。各部チェックが行われオールグリーンの確認とともに
総括管理室に隠し置かれていた「朝鮮製」の瞳がうっすらと開いた。
コンテナから朝鮮製が一歩足を踏み出す。バランサ―は正常に作動している。間接部位の軋みもない。
「人格」のDVD−ROMを読み終わった朝鮮製は次に「記憶」を得るために莫大なメモリが搭載されているコンピューターにアクセスを開始し始めた。
「リアルリアリティー…私がここにいるときは、私が死んでいるとき…103人の被験者…」
記憶が読み込まれるごとに朝鮮製の瞳に知性の光が宿って行く。
「はは…そうか…やはりこうなったのか。万が一のときのことを考えていて良かったみたいだ…」
口調に似合わないソプラノが閉鎖された空間に響き、その独語はやがて高い哄笑となった。
「はははははは、やった。完璧だよ! HMX12ほど人間に近いものが出来るなら不可能じゃないと思ってたんだ。やっぱり僕のリアルリアリティーな理論に間違いは無かった!!」
声はどんどん勢いを増して行く。
いつだったろう。自分が道を外れていることに気づいたのは。自分の行こうとしている道が正義でないと自覚したのは。
「はははははははははっ」
自分の身に万一があったときのためにバックアップとして…自分の道を追い求めるための道具として
出来る限り『自分』というものをデータ化してメイドロボに移植しようなんて事を思いついたのは。
「はははははははははははははははははははははっ」
笑いはやまない。そして、やがてその目は眼前いっぱいに広がったモニターのほうに向けられた。
「103名か…さあ僕に見せてくれ。ホンモノのリアルを。化け物たちが見せる本物の殺戮と君たちの抵抗を。本物のリアルリアリティーを!」
”彼女”は高らかにそう謳いあげ、さらに1オクターブ高い笑い声を上げた。





【超先生の遺志を継ぐもの朝鮮製TSS−10。総括管理室に存在】



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