両手に花
「由綺ぃぃぃ! 理奈ちゃーん!」
――なんてこったい、と俺、藤井冬弥は舌打ちする。今日何度目の舌打ちかしら、そんなもの数える余裕はない。
何だよ何だよまったくぅ! 折角余暇を見つけて三人で遊びに来てたというのに。今日は両手に花だったのだ、俺。
一応断っておくが、別に俺は別に理奈ちゃんと関係を持った訳ではなく、ただ友達として遊びに来ていただけだから雰囲気も良好だった。
アイドル二人を連れてデート! なんてこった俺! いやあ最高だったね、彰に自慢してやりたい、って、そんな事を云ってる場合ではない。
正直錯乱している。普段の俺はもっとまともな人間なのに、今、自分が何処かおかしな雰囲気だと判る。
当たり前だ――なんでこんな目に遭わなくちゃいかんのだ、冬弥は本日五十二回目の溜息を吐くと、ジープのハンドルに顔面を突っ伏した。
生き残れじゃねえよ、くそっ。一般人だぞ俺ら! しかもだらだらで有名な大学生だ。
しかも今回は武器がない。せめてマグナム拳銃でもあれば話は別なのだが……あるのは今俺が乗っているジープだけなのだ。
「くそっ……しかも、まずったな」
アイスを買いに行く、と、彼女らから離れたのが間違いだった。あの時、あと二分程待っていれば、少なくとも三人で行動する事は出来たのに。
ジープに戻った時、既に彼女らの姿はなかった。車のエンジンをかける時間すらなかったのだろう。
「畜生、畜生……」
何やってんだよ、俺は! 再びハンドルに顔面を押しつけて、心臓が透くようなぞくぞくした気分に浸る。たぶん、これは恐怖。
失くしたくない。大切な人も、友達も。
「馬鹿野郎、冬弥!」
――あれ? 何処かで聞いたような声だ。
「そんな風に落ち込んでる暇があったら車出せ、この野郎!」
「彰ッ」
――その通りだ。今すぐ動き出せば助けられるかも知れない訳だ、死んでさえいなければ、必ず護ってやる――
彰を車に乗せると、俺はエンジンを始動する。待ってろ、由綺、理奈ちゃん!
しかし、なんで彰はここにいるのだろう。まさか、一人で遊びに来てるのか? わはははは、って笑ってる場合ではない。
というか、なんか今日の彰は様子が変だ。
「なんか、今日のお前、偉そう……」
間髪入れずに彰は反応する。
「こっちも切羽詰まってるんだよ馬鹿!」
血走った瞳で、乱暴に彰が口走った言葉は、冬弥を驚嘆させるには充分であった。
「僕もはるかと美咲さんとはぐれちゃったんだよッ!」
何、お前も両手に花か!
【七瀬彰 藤井冬弥 女の子達を助ける為にジープで爆走開始】
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