〜第4章(続編2)〜

ある日の買い出しの途中、僕は仲間の一人であるジョニーさんと再会した。
ジョニーさん、以前と比べるとかなり男前に変わったなぁ〜。
吟遊詩人だったあの頃の面影が何処に行っちゃったのか…
まぁ、それはいいとして、ジョニーさんもやっと落ち着きを取り戻せて
本当に良かったと思っている。
「やぁ、スタン。久しぶりだなぁ〜。ところで、どうしてこんな所に?」
「あっ!ジョニーさん、お久しぶりです!僕はここ最近、知人の看病のために
滞在しているんです。それに、僕自身その人にはお世話になっているし…」
「なるほど…、大切な人の看病か…。お前さんもそろそろ年頃だなぁ。
とか何とか言って、俺自身も早く自分にケリをつけたいもんだぜぃ…」
僕には解っていたんだ…、ジョニーさん、実はフィリアに意中であることを…
あの時僕らがトウケイを発つ前、ジョニーさん、ひたすらフィリアに
何らかの言葉を投げていた様子だったからなぁ…
それから、僕はジョニーさんと別れて、紙袋を両手にイレーヌさんの元へ帰った。
勿論、彼女の笑顔を確かめたいためにね…。

看病を始めて数日後、その日は快晴の日和だった…
ガウンを羽織ったイレーヌさんは、窓の外の風景を切なそうに眺めていた。
何も言葉を頷かない…おそらく、遠い未来へ恋を感じているのだろう。
しばらくは、話しかけないでいようっと…
僕はそう心に決め、椅子に腰掛けながら愛しい姿を見つめ続けていた。
ふと…イレーヌさんは風景を点々と見渡してこう呟いた…
「こんなにも澄んだ光景…ずっと変わらずにあるかしら…?」
無意識に、僕は返答を返した。
「窓から覗く風景もいいけど、桜並木を点々と見歩くのも楽しいですよ」
「桜並木……」
僕は一瞬、何か気まずいことを言ってしまったかなぁと思った。
何故なら、その時イレーヌさんは軽い頭痛を起こしたのか、
こめかみを指圧し始めたからだった。
僕は心配が収まらなくなり、急いで彼女をベットへ寝かせた。
「大丈夫ですか…?」
「うん、大丈夫よ。ただ…私の脳裏に、一つの光景が浮かんできて…」
もしかして!と感じて、僕はイレーヌさんが落ち着きを取り戻したと同時に、
サックの横に付いている小さなポケットからある物を取り出し、
そして、彼女に見せた…。
「これ、わかりますか?僕が貴方と食べていたアイスキャンディーの当たりクジですよ」
すると、僕の持っていたアイスキャンディーの当たり棒をパッと手にして、
イレーヌさんは驚きの表情を現しながら僕に言葉を投げつけた。
「これは確か…ノイシュタットで売っているアイスキャンディーの当たり棒…」
それから、僕の顔を見上げて再び頷いたんだ…
「貴方は…スタン君?そうでしょう?!」
「イレーヌさん、記憶が戻ったのですね!」
無事に記憶を取り戻せたのとは裏腹に、かなりショックを感じ始め、
急に起き上がっては病室を駆け出して行った。
まさか!また衝撃に吊られて何か起こすんじゃないか?!と、
慌てて僕も病室をあとにし、イレーヌさんのあとを追ったんだ。

しかし、モリュウの町をあちこち探しても、彼女の姿が見当たらない…
気がつくと、空が夕焼けで橙色に染まり始めていた。
丁度その時、海辺で波に向かってゆっくり歩いていくイレーヌさんの姿を見つけた。
また身を投げるのでは?!決してそうはさせない!
そう強く抱きながら僕は波へ走って行き、イレーヌさんの腕を握り締め、そして頷いた…。
「イレーヌさん!これ以上無茶しないで下さい!お願いします!!」
「私は罪を犯していたのよ!もはや、生きる資格もないの!」
「そんなことない!!貴方はこうして無事に生き延びれたのですよ!
どうして?どうしてもっと自分自身を大切にできないのですか?!」
「私は…自分の思う理想だけ考えて、全てに裏切りを果たしていたのよ。
こんな私を許してくれる人なんていないわ。それに、私はもうこの世界に
必要のない存在だから……」
我武者羅になっていたイレーヌさんの動揺を抑えようと、
ついに僕は彼女の頬をピシャリと叩いてしまった…。
ルーティやリリスにさえ、頬を叩くことがなかった僕だったが、
その時はやむを得ず、苦しみから立ち直らせる適切な手段として行ったんだ。
それから、再度僕は説得を繰り返した…
「貴方は、貴方自身に対して逃げているだけです。それに、僕はイレーヌさんを
恨んでなんかいない。むしろ、貴方と出会えて、色々教えてもらっているし…」
イレーヌさんは僕の胸で泣き崩れながら、ようやく本当の気持ちを伝えてくれた。
「怖かったのよ…貴方の優しさと誠実さが…。これまで、いつもそばに誰かがいると
思っていても、振り返ると一人ぼっちだった…そんな寂しい日々の中、
貴方と巡り会えて、そして自分の心が動き出したのに気付き、一人嘆いていたわ…」
「もう大丈夫だよ、イレーヌさん。これからは僕が貴方の力になってあげましょう」
「スタン君…」
少しの間、イレーヌさんは僕の肩を強く握り締め、ずっと泣き続けていた。
でも、このままだと、二人ともずぶ濡れで風邪を引いてしまう…
「イレーヌさん、一緒に帰りましょう…」
「うん…」
僕はイレーヌさんを負ぶさりながら、病院へ戻っていった。
夕焼けを背景に、彼女の髪の香りを心で感じながら…

その日の晩、イレーヌさんは急な発熱を起こした。
僕は手ぬぐいを何度も取り替えては、彼女の額へそっと充ててあげた。
もう大丈夫だよ。ずっとそばにいるよ…
僕の中で、初めて人へ対する愛情が芽生えていた。
それは決して軽い意味なんかじゃない。
僕自身、真剣に人を愛する責任を心で感じ取っているんだ…。
しばらくして、ジョニーさんも病室にやってきた。
僕の心配そうな表情を見て、温かく元気付けの言葉を頷いてくれた…
「スタン、どうやら大変なことになってたなぁ…。俺にもその気持ちが解るぜ。
自分の愛する人を必死に支えていく精神、生きていく上でどれだけ大切なのかを…」
「ジョニーさん。僕、本気なのです。もうこれ以上、何も失いたくない…
それだけでも僕の心が揺れ動いていて…」
ジョニーさんも僕の悩んでいる様子を見て、動揺した表情に変わっていた。
僕とジョニーさん、それぞれ大切なものを失う悔しさをもう二度と味わいたくない…
そんな強い願望を互いに抱いていたんだなぁ。

それから僕は考え直して、イレーヌさんが元気になったら、
リーネとノイシュタットを往復して生活しようと決めたんだ。
それに、イレーヌさんにも彼女自身、もう一人ぼっちじゃないことを実感させて
あげたいと強く想い始めている。
その日が1日でも早くやってきますように…と願いながら、
僕もベッドの傍らで眠りにつき始めたんだ…。

 

〜第5章へ続く〜

 

〜もどる〜

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