〜第3章(続編1)〜

あれから一年と少しが過ぎる頃、
僕はリーネで農業の手伝いをしたりなど、のんびりと生活を過ごしていたんだ。
今ごろ、イレーヌさんは天国から僕を見守ってくれてるだろうなぁと、
時より思い浮かべたこともあるけどね…。

ある日、仲間の一人であるマリーさんが村へ訪れてきたんだ。
珍しく一人だったんで、何かワケあるのかなぁ?と思い、僕は家へ案内した。
それに、その時のマリーさん、何だか真剣な表情をしていたから、
僕自ら話を聞き出した…。
「マリーさん、お久しぶりです。ところで、今日はどんな用件で?」
「実はお前に重要な話があって来たんだ」
「重要な話?」
「それはな……」
この日、僕は衝撃的な事実を耳にしたんだ。
マリーさんの話によると…
ヘルレイオスでイレーヌさんが地上に身を投げた件について、
不幸中の幸いがあったということだった。実は彼女が身を投げた先がセインガルドと
アクアヴェイルを結ぶ海上だったため、一命を取り留めたそうだ。
丁度、ジョニーさんの親友であるフェイトさんを乗せた船が海上を横切っていたおかげで、
無事に船内に保護され、今ではモリュウ領で療養生活を送っているらしい。
しかし、意識を取り戻せたものの、ショックの大きさが原因で重度の記憶喪失に
なってしまっている。
…と、いうことだった。
「それは大変だ!僕、早速出掛ける準備に入ります」
「焦らずに、ゆっくり準備してくるようにな…」
僕はすぐに部屋へ入り、サックに荷物を詰めたのちにマリーさんと家を出た。
リリスは相変わらず、僕が出掛けるとなるとあれこれうるさく問い掛けてくる。
「お兄ちゃん!また旅するの?!」
「違うよ!今回は戦争しに行くんじゃないんだ。その…、療養している仲間の
看護を努めることにしたんだよ…」
「なぁ〜んだ…、そういうことなら私も賛成よ。お兄ちゃんにできることを
しっかり成し遂げてきてね♪」
「ちっと大げさだなぁ…リリスは。ま、それじゃ行って来るよ」
「行ってらっしゃ〜い」
リリスは珍しく笑顔で見送ってくれた。
もう、戦争なんて起きるはずのない、新しい時代が訪れたことだしな…。

リーネをあとにして翌日、ノイシュタットから船に乗り、
船内で僕はマリーさんに、どうやって情報を入手したのかを訊ねた。
「ところでマリーさん、どうして今回のことを耳にしたのですか…?」
「その頃、私はダリスとスノーフリアへ出かけていたんだ。そこでたまたまフェイトが貿
易に訪れていて、私達とばったり出会ったと同時に、今回の情報を伝達してくれた。先ず
最初にお前に伝えるべきだと思い、村へ来たわけだ…」
「わざわざ、遠くから来ていただいてありがとうございます」
「なぁに、心配ないさ。何しろ、私達仲間にとって大事な出来事だからな…」
それから、一旦セインガルド港を経由し、ルーティを出迎えた。
ルーティもマリーさんから話を聞くと、とても心配そうな表情で同行を承知してくれた。
普段、自分中心に物事の左右を決め付けるルーティだけど、肝心な事情となれば
素直に協力をしてくれるところが、彼女自身の長所なんだなぁ…なんてね。
「あのイレーヌが生きていたなんて…不幸中の幸いね…」
「しかし、それがまた大変な状態なんだ。イレーヌ、記憶喪失になっているらしい」
「本当に?!私達で何とか記憶を取り戻せられるよう、看護をしっかりしなくちゃね…」
どうしてなのか、ルーティは僕の顔をチラッと見て、小さく笑みを投げかけてきた。
確か、話によると、あの時僕がイレーヌさんとノイシュタットの街を歩いていた
一部始終を、マリーさんと後を追いながら観察していたらしい。
だから、ルーティはこっそり僕とイレーヌさんとの関係を把握していたんだなぁと思う。

僕らがモリュウ領に到着したのは、約3日後だった。
マリーさんの先導で、イレーヌさんが療養している場所へ向かったんだ。
そこは小さな病院になっていて、受付嬢から病室の番号を訊ねたのちに、
イレーヌさんのいる病室のドアをノックした。
「はい…どちら様で…?」
ドアの向こうから声が聞こえ、ゆっくりとドアを開け、イレーヌさんの姿を拝見した。
が、しかし、僕らの顔を一目見たにもかかわらず、誰が誰だか判らなかった様子だった。
「イレーヌさん、お久しぶりです。スタンですよ」
「スタン…さん?」
「はい、そうですよ、イレーヌさん」
「私は…イレーヌっていう名前なの?」
「そうよ。それで私がルーティ。こちらがマリーよ」
「イレーヌ、また会えて嬉しいぞ」
「ルーティさんに…マリーさん……」
どうやら、僕らの名前も忘れてしまったらしい。
でも、僕にはわかっていたんだ…
イレーヌさんはただ、人生でハズレくじを引いただけなんだ…と。
一度僕らは病室を出て、これからのことについて話し合い始めた。
イレーヌさんの記憶を取り戻すためには、誰がついていることになるのかをね。
その結果、僕がイレーヌさんの看病を努めることにした。
それに、僕自身苦しんでいる人を放っておけない性格だし、
イレーヌさんからは色々いいお話をおしえてもらっているもん。

翌日、ルーティとマリーさんは他の仲間にも情報伝達しに、モリュウを発って行った。
僕は一人、大切な人の看病に努め始めた。
毎日、不器用ながらも丁寧にリンゴを向いては、不規則に切り分けて食べさせたり、
軽くカードゲームしたりと…少しずつイレーヌさんの心を解放させるよう努力した。
イレーヌさんは未だに記憶を取り戻していないが、
何とか感情を寄り戻すまではできたようだ。
彼女が笑うと、僕も笑みを返して、和みのある日々を送り続けた。
僕は気付いていたんだ…自分にとって一番大切な人…それはイレーヌさんであることを。
これって恋なのかどうかは…上手く表現できない。
でも、イレーヌさんをずっと守ってあげたい!それだけは本当だ。
もしも彼女の記憶が戻ったら、先ず最初にノイシュタットの公園へ連れて行きたい。
その日が来るのを、今は気長に待っていよう…っと、僕は一人胸を弾ませていた。

 

〜第4章へ続く〜

 

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