〜第1章(本編:第1部より)〜
僕の名は、スタン・エルロン。
今現在はリーネとノイシュタットを往復する日々を過ごしているんだ〜。
えっ?どうしてノイシュタットに行く用事があるのか…って?
そう。僕には守ってあげたい人がいるのさ。
相手は誰だって?それはこれから僕のお話をじ〜っくり聞いてのお楽しみだよ♪
あの頃は確か、グレバムの奴が神の眼を持ち歩いてあちこち逃げ回っていたなぁ…。
僕らは奴の活動を止めようと、必死になってあとを追っていた。
場所を点々と移っていく途中、僕の地元のフィッツガルドにある都市・ノイシュタットで
一人の女性と出会ったんだ。彼女の名は…イレーヌ・レンブラント。
容姿も落ち着いた雰囲気で、何より人へ対する思いやりが強いところに魅力を感じる。
丁度その頃、グレバムの手下らしき者が海賊船を乗っ取ったという知らせを受け、
僕らはおとりになって海賊船への侵入を企んだ。
イレーヌさんは、港で心配そうに見送ってくれた。
まるで、初めて旅立つ子供の巣立ちを見守るかのように…
無事、海賊の頭(かしら)だったバティスタを捕まえ、港へ戻ってきた時も
イレーヌさんが迎えてくれたな…。
彼女の表情には、安心感が溢れていた。
リオンはバティスタの取り締まりを行うため、僕らに少しの自由時間を与えてくれた。
普段、僕らの行動を角から角まで仕切っていたあいつが、
珍しく時間を解放するなんて…あいつらしくないと言うか、
やっぱり本当は人の心が解る奴なんだなぁ〜なんてね。
それで、すぐに僕はイレーヌさんのお誘いを受け、街中を散策することにした。
先ず最初に向かったのは、確か公園の並木道だったな…。
路の脇に立っている樹を一つずつ眺めて、そしてイレーヌさんは僕に頷いた。
「この公園の桜並木…毎年変わらない光景で、見る度に心が和むわ…」
この時僕は初めて、人としての自然へ対する情念を知った。
僕も自然に恵まれた場所で生まれ育ったんだけど、こんなに自然の優しさを
心で感じられる…素晴らしいようで、ある意味僕的には羨ましいとも思ったんだ。
しばらく並木道で深呼吸をした後、イレーヌさんは珍しいお菓子をご馳走してくれた。
アイスキャンディーと言って、街では流行になっているらしい。
僕にとって、ご馳走してもらうことが滅多になかったのか、
遠慮がちにしていたのにもかかわらず、イレーヌさんは気を配ってフォローしてくれた。
「あら?お姉さんからご馳走されるの嬉しくないの…?」
ちょっぴり寂しそうな言い草で訊ねてきたんで、僕は焦ってすぐに返答してあげた。
「そ、そんなことない!とても嬉しいよ…」
「貴方の喜ぶ素顔、可愛らしいわ」
「えっ?そっかなぁ…?」
一瞬僕は赤面しちゃって…言葉がなかなか出なかった。
でも、そんな僕をイレーヌさんは優しい目で見続けていたんだなぁ…。
「ねぇ、スタン君のイチゴ味のほう、一口頂いていいかしら?」
僕自身もお誘いを受けてまで、このくらいで「いや!」とは言えず、
一口だけイレーヌさんにアイスキャンディーをかじらせた。
「…うん、甘くて美味しいわ。もしかして…これって間接キッス〜?」
「そ…それは……」
「うふっ、照れちゃってもう〜」
益々大人の女性の気持ちが、僕の中では複雑になっていった。
僕って、人の気持ちをストレートに受けてしまいがちなほうだし、
相手が冗談で言っているのか本気で言っているのかも、判断しにくいんだよなぁ…。
公園をあとにすると、街で最も盛んなスポットである闘技場へ向かい、
チケットを購入してから、二人で場内に入っていった。
そこで初めて、コングと出会ったな…。
最初、奴のことを気持ちが単純過ぎて嫌な印象持ってたんだけど、
これもまたイレーヌさんのおかげで、新しい友情と絆が生まれたんだ。
始めは観客席で試合を観覧していたけど、それだけではなかった。
僕自身に対して男としてのプライドを見せてほしいと思っていたのか、
それとも、ただ会場の広さを目で確かめさせてあげるだけだったのか、
わざわざフィールドまで案内してくれたんだ…。
その時、僕には闘う意欲はそんなになかった。
けど、コング自身が僕に対して興味を示したのか、いきなり決闘を申し込んできたんだ。
僕は丁度、イレーヌさんの背後に立っていたため、
コングは僕が闘いを拒否しているように思いこんでいたんだなぁ…。
それはまたいいとして、奴が僕とイレーヌさんに対して気に触る発言をぶつけてきた。
「おぅ!この街で偉大な存在の女子(おなご)じゃねぇか〜。んで今日はどんな用事だい?」
「今日はただ、こちらの彼に会場の案内に来ただけなの」
「この場にはなぁ、闘う気のない者は足を踏み入れちゃならねぇのだぜぃ。
おい!そこのトサカ頭の坊主、この俺様に決闘するのだな?喜んで受けて立つぜ!」
「スタン君、挑発に乗っちゃダメよ!」
「………」
「なぁ〜んだ…、闘わないと言うのならただの弱虫に過ぎねぇなぁ〜。そんな野郎はとっ
とと失せろ!いずれにせよ、女がこんな所に足を踏み入れる自体がおかしいんだよ」
「何だと?!!この、ハゲ頭め!!!」
僕は一瞬にして怒りを抑えきれず、そのままコングとの決闘を受けた。
その時、イレーヌさんの心配を他所に、僕は一人の男としての情熱を燃やしたのだ。
コング自身、武器を使った闘いをしないのに拘っているのか、奴の拳はかなり凄かった。
でも、このくらいの戦闘で敗れたら、僕としても意地とプライドを惜しむことになる。
あの時の僕は、ある意味全力投球の状態だったに違いない。
互いに技を発し合う中、最後の一撃を同じタイミングで発したのだ…。
「烈空斬!!!」
「グレイトアッパー!!!」
直後、お互い地面に倒れこみ、審判の判定も難しかったようだ。
気がつくと僕は、医務室のベッドに横になっていた。
イレーヌさんは僕のことを心配してくれていたのか、優しく声をかけてきた。
「スタン君…大丈夫?」
この言葉で目を覚まし、起き上がってすぐ、コングが若干気の毒そうな表情で現れた。
僕の顔を見ると、素直な言い草で頷いてきたんだ…
「坊主、さっきは悪かったな…。俺様も調子に乗りすぎた…。
でもなぁ、今度はもっとお前自身で強くなってまたここへ決闘に来るがいい。
その日を待っているからな!クソッ……!」
「……、何なんだ?アイツ…」
イレーヌさんはその時、僕とコングの気持ちを理解した上で優しく頷いた。
「きっと、男の友情でしょう。スタン君、もう大丈夫かな?」
「…うん、もう大丈夫」
それから闘技場をあとにし、門前で再びイレーヌさんは僕に切なそうに頷いてきた。
「スタン君…、さっきは私をかばってくれていたんでしょう…?」
「うん…。ただ、あいつの言うことに僕自身腹が立って、それで結局……」
「いいのよ。そのスタン君らしい誠実さに、私、感心よ…」
この時僕は、イレーヌさんもやっぱり女性だなぁって感じたのさ。
その…一見強い心を持っている反面、何処かか弱いところがあるんだなぁと…
でも、その日のデートと通じて、僕に新しい切欠が出来たのは確かなんだ。
そして、またイレーヌさんとノイシュタットで遊びたいなぁと、心で感じている…
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