〜終章〜
新しい朝がやってきた。
二人は、ルーングロム達の呼び出しによって起床をする。
外は少し曇りがかっていた。
早速ルーングロム達は、研究の結果を報告した。
「おはよう、二人とも。昨日の言っていた研究の結果なのだが、
これからユーグリッドの精霊の森へ行くことにした。
そこで世界樹・ユグドラシルの雫を手に入れ、それからこの杖に振り掛け、
そして高い場所で念を唱えるのだ」
「これこそ、マナの力を借りるのですね。良い提案を有難うございます」
「それとだ。この世界のあちこちが破壊されている大きな原因も判明した。
それは、魔族そのものではなく、地下から放出されている瘴気によって、
自然界に生息する動物も狂暴化しているという事実であることだ」
「瘴気が生き物を狂わせる…か…。下手すれば、僕達人間も瘴気を吸い込んだら、
大変なことになりかねないかもしれないな…」
「そういうわけだ。だから、標高の最も高い場所で、
世界の全てのマナを共鳴させる必要性があるのだな」
「そろそろ出発するとしよう…」
こうして一行は宿屋を後にし、町の西端に位置する港から船で大陸に向かい始める。
これで、今は無き私の故郷への償いになるのですね…
すずは心の中で、生まれ育った里への思いを強く抱き出す。
昼が過ぎ、一行を乗せた船は、ユーグリッドの南東にある小さな港に到着した。
船から下りると、すずが忍術・葉隠を発し、空間移動で精霊の森へ向かう。
森の入り口に着き、路を進んでいたその時…、
4人の目の前から、瘴気を浴びたと思われる猛獣が突進して来た。
リオン、すずの二人は先頭に立ち、すぐさま攻撃体制に入る。
「忍法・写身!!」
「魔神剣!!」
一匹、二匹…と退化していくのにもかかわらず、その奥からもどんどん突進して来る。
これでは、いくら同じ戦い方でも限がない。
そこに、すず達の後ろで詠唱をしていたルーングロム、ブラムバルドが
魔術を発し、猛獣らへ命中を狙い定める。
「出でよ…火炎弾(ファイヤーボール)!!」
「そこだ!!神の雷(インディグニション)!!!」
猛獣の殆どが一気に退化した。
あと残りわずかになった群れを、最後の一撃で倒す…。
「忍法・五月雨!!」
「空襲剣!!!」
猛獣の気配がなくなり、再び森を歩き始める。
しばらくして、前方に長年の歳月を過ごしてきたかのような大木が見えた。
これこそ、世界樹・ユグドラシルであるに違いない…
ルーングロムの確認によって、その該当する樹であることが判明した。
早速ブラムバルドは、手に持っていたガラスの瓶に、雫を入れる準備に入る。
すず、リオンの二人は、胸に期待を募らせている。
「ブラムバルド殿。準備は宜しいか?」
「はい。あとはこの瓶に雫を入れるのみです」
「了解した。では皆の者、少し下がっていてくれ…」
ルーングロムに従い、他の3人はユグドラシルから数歩離れた。
すると、樹の手前に、優しい顔をした女神らしき精霊が姿を現す…。
「すず、あれは何だ?」
「この世界樹・ユグドラシルを守っている精霊・マーテルです。
マーテルのおかげで、私達の住む世界の自然エネルギーが保持されているのです」
ルーングロムは何かマーテルに事情を話し、それで交渉を始めている様子だった。
『そのことでしたら、是非力になって差し上げましょう…。樹の裏に回って、
枝から滴る雫を手に入れてください。しかし、エルフの血を引くものは、
残念ながらマナを共鳴させることが不可能になります。何故なら、共鳴と同時に
マナ全体が世界中を暴走し出し、反って世界を崩壊することになってしまうのです。
ですから、純の人間の方にそれをお願いしていただけませんでしょうか…?』
「なるほど…。我々エルフの血を引くものがマナを共鳴させることは、
逆に世界中のマナが暴走してしまうことになるわけだ…。そうすると…、
すず、リオン、君達にお願いする形になる。宜しいか?」
「大丈夫です。この世界に平和を取り戻せるのでしたら、是非ご協力致します」
それからルーングロム達は、問題のマナをどうやって共鳴させるかを説明し始める。
説明によると…、
先ず最初に、ユグドラシルの雫をルーングロムが見せた杖の先に着いている小瓶に
入れ、そして、小瓶の蓋を閉めた後、もう一人が杖を持つ者の前に跪き、
教えられたとおりの詠唱を唱え出す。唱え終えた時点で杖の先にある小瓶の蓋に
付いているアミュレットが光を放ち、それでマナの共鳴を発動させる。
…と、いうことだ。
「それでは、杖を持つ側としてリオン。詠唱する側としてすず。
それぞれの役割を君達にお願いする」
「承知致しました」
「了解した」
すずとリオンの役割分担を済ませると、一行はマーテルにお辞儀をした後、
森の南の方から高山に登ることにした。
しかしながら、頂上まで辿り着くのには約半日かかってしまう。
そこで再び、すずが忍術・葉隠で皆を包み込み、頂上まで空間転移を発動した。
無事に一瞬で頂上まで辿り着くことが出来た。
辺り一面は、殆ど雲海だらけである。
真上には太陽が数倍に大きく見え、もう少し高い場所だと宇宙の境になりそうだ。
ブラムバルドが周辺の様子と方角を確かめ始め、
ルーングロムがマナの共鳴に相応しい位置を手配し始める。
間もなく、すず達は詠唱の準備に入るように命じられ、
訓えられた位置へそれぞれつく。
「二人とも、準備は良いか?」
「はい」
「良いぞ」
「さぁ、すず。早速詠唱に入ってくれ…」
「はい。…」
すずの真後ろでリオンが垂直に雫を入れた杖を抱え、
すずは跪き始め、詠唱を始めた…。
「精霊マーテルよ…、主の力を供に世界の全てのマナを一つとし、
地に光の雨を降り注ぎ、厄となるものを祓い給え…。そして、マナを共鳴し、
世界に平和という光を与え給え……」
すると、リオンの抱えている杖の先から青い光が点り、光は放射線状に放たれる。
そして、周りの雲海が突然光り始め、足元が途端に振動し出した。
「…ルーングロム殿。これはいかなる事でしょうか?」
「世界にマナの共鳴と同時に、マナを含む雨が降り出したのだ。
これで瘴気が抹消されると思う」
「これでもう、世界のあちこちが破壊されることはなくなったのですね…」
「そのとおりだ」
彼等が喜びを感じている中、再び動きが変わってくる。
共鳴が治まり、雲海のあちこちが切り裂かれていった。
雲の合間から見えるのは、全くと言って良いほど澄んでいる地上の光景だった。
「君達、良くやってくれた。我々から褒美を差し上げねばならぬ。
一旦ここを撤収するとしよう」
「ありがとうございます。私達もお力になれて、何より嬉しいです」
やがて、頂上を後にし、精霊の森を過ぎ、船で都へ戻った。
街中は、無事に本当の平和が戻って来たことに喜びと活気が表れていた。
一行が城の手前に着いたところに、一人の男性が姿を現した。
彼こそが、時間転移によってクレス達を迎えに行った、ハリソンである。
「ルーングロム殿。そして皆様。お疲れ様でした。
ところで、一つご用件がございます。
すずという少女に再会をしたいという方が近くにいらしています。
どうか、お時間のある限りお会いしていただけませんでしょうか?」
「おぉ、乱蔵殿が元気になられたのか!すず、お爺様がやってくるぞ」
皆の立つ向こうから、すずの祖父・乱蔵が姿を見せた。
すずは久しぶりの再会に感慨されたのか、涙を堪えきれず、
すぐさま乱蔵の元へ駆け出していく。
「お爺様…無事だったのですね…。迷惑かけてごめんなさい…」
「いいのじゃよ、すず。お前さえ無事でいてくれたおかげで、私も安心じゃ。
しかし、帰る場所を失ってしまっては、これからどうして良いかも分からぬ…」
そこに、リオンが乱蔵に訊ねだす。
乱蔵はリオンの姿を見ると、珍しい表情で顔を覗いた。
「お爺様初めまして。僕はエミリオ・カトレット。通称・リオンと申します。
この度、すずとある切欠で知り合い始めました。以後宜しくお願いします」
「ほっほぅ…リオン殿か…。そちがすずを見守っていたのだね?
感心じゃよ…。これからも孫娘のすずをよろしく頼むぞよ」
「それでですが、もし宜しければ僕と一緒に今後暮らしていきませんか?」
「そうじゃのう…すずがどう決断するかで、私もこれからの生活を決めるのじゃが…」
すずは素直に、リオンと乱蔵に提言する。
「私は、是非リオンさんと共に今後やっていきたいです。
異次元の世界を通じて巡り合えた同士、これからは仲良く…」
その時すずは突然顔を赤らめてしまう。
そんなすずを、リオンと乱蔵は和やかな目で見つめている。
乱蔵は心で、すずのこれからの幸せをもう一度考え直した。
すずよ、我々忍びの者は非情でなければならないのじゃが、
今はもう、私は故郷である里を失くしてしまった限り、頭領の務めも終えてしまった。
だから、これからは共に自由に暮らそうではないか。
そう言えばすずも年頃じゃ…
人を愛することを覚え始めても可笑しくない。
リオン殿と共に、新しい幸せな家庭を築こうではないか。
こうして、すず達、そしてルーングロム達の胸が、喜びで高鳴り出していたのである。
すず達の住む世界へ別れを告げる日が、その次の日にやってきた。
3人は宿を出ると、ルーングロム達のいる城へ向かい、
門前の兵士から面会の許可を頂いた後、通用口に立っていたハリソンの
案内で王の待つ謁見の間まで辿り着いた。
王の手前には、ルーングロム、そしてブラムバルドが立っていた。
「そち達が世界の瘴気を抹消してくれたのだね?」
「はい。おかげで、今は無き里への責めての償いを果せた喜びで心が一杯です」
「よくやってくれた。お礼に、私からそち達に褒美を差し上げよう。
ハリソンよ、例のものをこちらへ渡して差し上げたまえ」
「かしこまりました」
ハリソンは、両手に持っていた布に包まれた何かを、リオンに差し出した。
「早速開けて見ておくれ。この世界でなかなか手に入らない貴重な宝である…」
布を開けてみると、まるでオパールのような色をした、宝石のお守りだった。
「そのオーブは、両手のひらで暖めながら念じると、異次元の世界の行き渡ることが
出来るのだ。是非、そのオーブで、新しい旅を味わってみたまえ…」
「ありがとうございます。責任を持って大事に仕舞っておきます」
こうして3人は王にお辞儀を済ませると、ルーングロム達に別れの挨拶を始める。
普通、別れとなると、互いに涙をするものであるが、
皆は誰しも、逆に喜びの表情だった。
「すずよ、当分の間お別れになるのだな。達者で暮らすのだぞ」
「はい。祖父と共に、リオンさんと一緒に暮らしていくことに決めましたから…」
「それはよかった…。では、リオン殿。すず達を宜しく頼む」
「了解した。では、またこちらの世界にもいつか旅しにくるかもしれないが、
その時はまた宜しく」
「心得た。それでは、くれぐれもお幸せに…」
「さようなら。皆様もお元気で…」
それから3人は都を後にし、早速リオンは王から頂いたオーブを
手のひらで暖めながら念を唱え始める。
すると、手の中からオーブが光りだし、3人の目の前に光りの空間が生じ、
瞬間に3人を包み込み、そして世界から空間を切断した。
この空間は、今まで遭遇したものと全く異なっており、
辺りは虹色に輝いていて、突風も吹き荒れない。
一体すずを包み込んだ空間は何だったのだろうか?
見覚えのある限りでは、瘴気で出来ているものでなかったのには間違いない。
そうだとしたら、どうしてすずを別世界に導いたのだろうか?
それは、世界と世界を繋ぐ空間が、すずとリオンの運命を築き上げたのであった。
その空間は、決して星の地面には存在しない。
だとすれば、空の彼方に浮かぶ月が、二人の出会いを予言していたのだと思う。
時空と運命を貫く大いなる奇跡が、一つの新たな出会いを作り出したに違いない。
数々の恵みは、全ての生きるものに与えられる象徴であるのだ。
…ここはダリルシェイドの郊外に位置する小さな町。
ある日、青年と少女、そして老人が海岸で暖かいそよ風を満喫していた。
もう、争いなんて要らない…
3人ともそれだけを心で常に願い続けている。
「すずー!こっちに綺麗な貝殻が落ちてるぞ〜」
「は〜い、今行きまーす」
二人の活発に走り回る様子を、老人は温かく眺めている。
これでもう、何も未練はない。
そう、老人は心の中で感じていた。
リオンさん、貴方に出会えたおかげで、私は変われました。
貴方が教えてくださった真心、私はずっと誇りにしていきます。
老人も、立ちあがっては軽く背伸びをした後、二人の元へ歩いていく。
これから二人がどう成長していくのか、楽しみじゃ…
老人は笑顔で二人の間に混ざる。
すると、急に体を動かしたのか、少しぎっくり腰をしてしまった。
「あら…お爺様。しっかりして下さい…」
「久しぶりに運動するから、流石に体が慣れてないのう…」
「お爺様、大丈夫ですか…?」
青年は苦笑いしながら、老人の腰を優しく擦り始める。
僕にはお爺ちゃんがいないけど、乱蔵さんとの絆を深めることで、
また違った家族の幸せを感じられるのだな…
それぞれの思いを胸に、一日の平和な時間を過ごした。
愛、それは完全に手に入れるまで、様々な苦難があるもの。
それを、どのように乗り越え、そして確かめられるのかは、
生きている限り、永遠に考えなければならない。
自由と幸せ、この二つの条件にたまたま遭遇したのが、運命と奇跡である。
人は恵まれながら世に生まれ、そして許された範囲で、
己の良心を尊重し合う習慣を身につけていくものだ。
また、変えていくべきもの、あるいは変わってはならないものがある。
それは、自由の中で責任と言う能力で判断して結果が出るもの。
すず達にとっても、それぞれの思いを労り、助け合い、
それで本当の幸せを彼女達の力で築き上げている…
リオンさん、ありがとう。
貴方に出会えて、私はとても幸せです。
これからは私達の力で、愛を築いていきましょう。
私はずっとリオンさんを愛しています…
〜fin〜