〜本章3〜
リオンとすずを包み込んだ光の空間が動きを変えた…
砂嵐のように濁った空間が歪み出し、二人の周りに突風が吹き荒れ始める。
そして、目の前に眩しい閃光が放たれ、素早く目を交わした瞬間、
何かに吸い込まれた感覚の後に地面に足がついたのに気づく…。
ようやく帰れることが出来たのですね…
すずはそう心で頷くと、そっと目を開け、辺りの光景を点々と確かめた。
ここは…夜明けの薄暗い森の中…
おそらく、トレントの森に違いない。
「…リオンさん、やっと辿り着きました。
ここから多分私の住む里に行けるかもしれません」
「そうか?丁度朝がやって来ることだし、お前の住む村に行ってみよう」
そして二人は、視界を意識しながら少しずつ路を探し始める。
数十分後、すずの目に映ったのは、一匹のトンボだった。
確かにここはトレントの森…
すずの見たトンボの種類から、生まれ育った森であることがすぐに判った。
また、歩き続けている途中、目にしたものは、
忍びの者が修行中に使用する的となる道具が置き去りにしてある光景である。
もうすぐ夜が明ける…
今から帰れば丁度いい時間に里に着ける。
そう考えると、すずは喜びを胸にるんるんと歩幅を広くして路を進んでいく。
リオンも少し駆け足で彼女の後についていった。
朝がやってきた…。
二人はやっとのことで里の入り口付近まで辿り着くことが出来た。
早速駆け足で入り口まで走って行き、里に足を踏み入れたその時…、
ふとすずは呆然とした表情に切り替わっていた…。
どうして…どうしてなの……
立ち止まって動かなくなったすずの横にリオンも足を運ぶと、
変わり果ててあった光景に驚きとともに唖然となり始める。
「すず…これはどういうことなんだ?」
「私にも判らないのです。ただ…私が旅立っている間に、いつのまにか…」
「でも、これは酷過ぎるんじゃないのか?一体誰がこんなことを…」
そこに、二人の耳の尖った男性がやってきた。
すずの姿を認めると、急いで近くまで走ってきて、そして話し出す。
「君、忍者だね?」
「はい。でも、どうして里がこんな風になったのでしょうか…?」
二人の男の話によると、ダオス討伐の後にも残党がすずの住む世界のあちこちに
生息しているのは当然のこととして、そのモンスターを操る、地下の世界に生息
している魔族が再び破壊活動を始めたという事から、このような事態に
なりかねない状況になっていると言うことだった。
「酷い…酷過ぎます…。確か、ダオスを倒す前に魔族の一部を倒したにもかかわらず、
どうしてまた生息しているのか分からないです…」
男達はリオンの姿を見ると、最初に挨拶を交わし、再び事情を聞き出す。
「ところで君は?」
「僕の名はエミリオ・カトレット。通称リオン。以後宜しく…」
「リオン殿か…。私はアルヴェニスタ城で研究所の宮延魔術師をしている、
ルーングロムと申す。今回、このような事件の真相を追求している」
「私の名はブラムバルド。ここから先を行くエルフの集落の所長兼族長を務めてる。
今回の事件は我々エルフ族にも影響を及ぼす事態になっている。1日でも早く、
魔族の討伐が出来るよう、ルーングロム殿と研究を積み重ねているところだ」
その時すずは、里の崩壊は勿論として、祖父・乱蔵の無事までも心配している情景だった。
でも、このようになってからでは遅かったに違いない。
私には、もう帰る故郷がなくなったのね…。
すずは一人、顔を眇めて悲しんでいるところにルーングロムが再び声をかける。
「それと、君の祖父である乱蔵殿なら無事に生き延びて、
今はエルフの集落で静養していらっしゃる。しかし、精神的ショックが大きかったのか、
しばらくはそうっとしておいてくれないか?」
「本当ですか?!でも、祖父が心に衝撃を受けているのでしたら、
再会をする余裕がまだありませんね…」
その時のリオンは、あの人間同士で争った過酷な天地戦争時代を思い出していた。
まさに、この魔族の破壊活動は、無というものから始める理想だけを目的に
行われているものである。
今現在が駄目なら、同じ心を持つ同士、力を合わせて直していけばいいのだろうに…。
同時に、リオンはこれ以上自分の大切なものを失いたくないという願望を強く抱き始めた。
再び、ルーングロムが頷き始める。
「それと、このままでは世界の自然エネルギーであるマナが滅びてしまう。
それを防止するにも、最大の対策法を研究しなければならない」
「ルーングロム殿。言い伝えによりますと、奴等魔族の弱点は何とマナだそうです。
我々にとってマナで奴等を退治するのが一番いいと思いますが…」
「マナの力を借りる…か。まぁ、出来ないことは無さそうだな。
…それでは、私達と一緒にアルヴェニスタに行かないか?
そして、しばらくの間宿を手配しておくので、そちらで静養しているように」
「承知致しました。では、どうか研究の方を宜しくお願いします」
すずは二人の紳士にお辞儀をすると、一行はその場を後にし、
アルヴェニスタ方面へ出発した。
丁度、森から出た所から南の方に、船が待機していた。
4人はその船で都へ行くことに決める。
船の甲板で、すずとリオンは海風を浴びながら、それぞれ今後のことを考えていた。
最初に遭遇した光と、魔族の活動とは一体関係しているのだろうか?…
おそらく、忍族の私を活動の邪魔と見て、モンスターに特殊なエネルギーを付け加え、
それで別世界へ転移するように仕掛けたのだと思う。
この世界には、私達人間の他に、マナの精霊に恵まれて誕生したエルフ族が
存在しているのだが、地面の下にももう一つの世界があったとは知らなかった。
でも、私はクレスさん達と違って、族の一人であるのには間違いない。
そうなると、私達忍族もひょっとしたら
エルフ族と同じように生まれてきたのかもしれない…
一人考え込んでいるすずに、リオンが話しかける。
「すず、何を思い出していたのだ?」
「…あ、いえ。祖父の様態を心配していました。今ではたった一人の家族ですので…」
「お前にも、既に家族が一人しかいないのか…」
「えっ?」
「僕も、今では本当の家族は姉しかいないんだ。両親は既に他界している…。だから…」
「だから…?」
「家族以外で人間同士触れ合えた機会が滅多になかったんだ…」
リオンの顔にも、心配そうな情景が現われていた。
間もなく、水平線の向こうに陸が見え、先ほどの二人の紳士がすず達に連絡にやってくる。
船が徐々に陸に近付いていく。
それまで心配そうな表情をしていたすずとリオンは、今後の期待を抱き始めた。
でも、一度失ったものはもう取り戻せない。
それをどうやって代わりとして償っていけばいいのか。
私はこうして世界の中で生きていられるだけでも幸せなのね…。
そして、本当の幸せをリオンさんと共に考えていきたい…
船が港に到着し、一行は都へ入っていく。
街中はいつも通り、賑やかな雰囲気であった。
宿屋の前でルーングロム達に別れを告げると、
すずとリオンはしばらく街中で時間を費やすことにした。
中心部の広場では、噴水を挟んで、遊戯団の催しが行われていた。
子供達は芸を一つ一つ見る度に、大はしゃぎをしている光景である。
しかしながら、すず達には楽しいものを見て喜びを感じる余裕があまり無かった。
その時二人は、自分が小さかった頃もあれくらいすくすくをしていたなぁと
昔の思い出を振り返って浮かべていた。
「すず…お腹空いていないか?」
「えぇ。そう言えば、あちらの世界で朝食を摂ったきりですね…」
するとすずは、見覚えのある街中を歩き出し、建物のあちこちを見回り始める。
リオンも彼女の後につき、何歩か歩いた所にレストランがあるのを認めた。
すずの提案によって、二人はそのレストランで食事をすることにする。
そんなに多く食べれない心境でもあったため、サンドイッチと紅茶を注文した。
注文した品が来ると、予め濡れたおしぼりで手を拭いてから、サンドを食べ始める。
すずが懸命にサンドを頬張る様子を、向かい側からリオンは愛しい目で眺めていた。
そこにすずが、紅茶を一口飲んでから頷く…
「どうしました?一口も食べないで…」
「…あぁ、いや、お前を見ていて、その……」
「…くすっ」
「…今、笑ったな」
「えっ?」
「その…、お前は静かでいるより、たくさん笑ったほうが可愛いと思うのさ」
「リオンさん…。そんなこと言っていたら、私全部食べちゃいますよ」
「あっ!ずるいぞ!」
「くすっ!」
「あっ、また笑ったな…」
すると二人は無意識に声を出して笑い始める。
そんな二人の情景を、辺りの客達は初々しそうに見つめていた。
すずは、感情を出さないよりも、絶対に笑顔を振り撒いたほうが可愛らしい。
でも、それまでのすずの気持ちも解る気がする。
僕達戦士である以上、感情は物事の判断に邪魔となるものであるとよく言うけど、
こうして争いのない空間で、気楽に笑顔で暮らしてみたいものだな…。
もう、僕はすずを離したくない…!
リオンの心は益々情熱が募り出した。
二人は食事を済ませると、宿屋の方へ戻った。
クリーム色の照明が屋内の雰囲気を和ませている。
宿の主人に部屋の場所を訊ねた後、早速部屋に入り、それぞれ姿勢を緩め始める。
すずは窓の外から、夜空の星を数えている中、天辺の満月を見上げていた。
一方リオンは、ベッドの縁に腰を下ろし、何か考え事をしていた様子だった。
生まれてきて今までの経緯を脳裏に並べていく…。
僕が生まれてきたのと同時に、母・クリスは逝ってしまった。
だから、姉さんも僕も、母の面影は全く覚えていないことになる。
だが、僕達が姉弟の関係であることが判ったのは、
マリアンが屋敷に就いて間もない頃だった。
当時僕はまだ7歳だったな…
いつものように母親代わりに懐いていた中、マリアンは僕に一つの真実を教えてくれた。
僕に姉がいることを…
その後、父・ヒューゴは、僕とマリアンが話していた事を封印する代わりに、
これから指示に従わないと、マリアンが痛い目にあうことになると言いつけてきたのだ。
それから僕は、自分の守りたいもののためなら、命がけになっても構わないという
心を持ち始めたのだな…。
しかしながら、それは偽りの絆に過ぎなかった。
ある時ヒューゴの持っていたベルセリオスから聞こえた声…
神の眼を使い、新しい世界を築くことだと…
そして、ヒューゴに服従したまま、破壊活動に専念することになった。
本当はこんなことを僕はしたくなかった。
しかし、情を隠さないといけなく思い、結果的にスタン達を裏切る破目になり、
そして二度目の対決の後に僕は洪水に身を投げたのだな…。
でも、マリアンが無事でいられるのなら、仮令僕が命を失ってもいいと思ったのだ。
間もなくヒューゴも戦いに敗れ、死んでしまった後に、
ベルセリオスから身を現したミクトランから、また服従を告げられた。
今度は相棒のシャルの破壊を免れるにも、僕がミクトランの操り人形となった。
ただ従うだけのロボットとして…
僕はそれだけで過去の一生を歩んできた。
だから、どれくらい心の中で寂しい思いをしていたのか、今でも数え切れない。
あの時、僕の唯一の仲間であるスタン達に申し訳ない気持ちで一杯だった。
本当のことを言えば…
すず…僕はもう、誰の言いなりにもならない。
これからは僕自身の力で愛するものを守っていきたいのだ。
だから、僕について来てくれ。
ずっと、永遠に…
…リオンは、すずの方へ目を向けると、そっと頷きかける。
「すず…」
「…はい?」
「もし、この世界の魔族が滅びたら、僕達の世界で共に暮らさないか?」
「えぇ、喜んで…。でも、祖父がどう言ってくるのかが…」
「大丈夫さ。僕からもお爺様に提案してみるよ」
「お願いします…」
「あぁ、任せてくれ」
「…あっ、今夜も月が綺麗ですよ。一緒に観察しませんか?」
「そうだな…。一緒に月に願い事をしようか…」
こうしてリオンも、窓際へ足を運び、月を眺め始めた。
すずも愛しい仕草でリオンに寄り添い、彼の右腕に包まれながら空を見上げる。
そして、二人は満月に願いを唱える…。
新しい明日に平和がやってくることを…
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