〜本章2〜
ミライナはすずとの面会を済ませると、謁見の間へ戻り、
すずの様子に変わりがなかったことを王に報告し、その場をあとにして間もなく、
城の出入口でばったりリオンと出会った。
リオンはどうやら、王に昨日の村の状況を報告に来たらしい。
「あら、リオン君。こんな時間に珍しいわね?」
「うん…。王へのちょっとした報告を伝えに来たのさ…」
すると、ミライナは急に閃きを感じ、少し切羽詰った勢いでリオンに話しかけた。
「そうそう!リオン君に伝えたいことがあるの…」
「何だ?」
「すずちゃんって子、君に会いたいらしくてこの街に来てすぐに、
何らかの理由で取り抑えられているの!」
「どうしてだ?!あの子が何か悪い行為をしたというのか?!」
「私も彼女を信じていたいけど、君にしかあとは手段がないのよ!早く!」
「了解!分かった!ついでに僕からも説得してみるよ」
「ありがとう、リオン君…」
すぐさまリオンは駆け足で謁見の間に向かっていく。
どうして彼女が捕まらなければいけないのだ…?
彼女は悪い行為などするはずがない、僕の知る限り…
また、彼の脳裏には、ミクトランとの壮絶な戦いの記憶が浮かび出されてもいた。
もうこれ以上、人間同士の偽りなんてゴメンだ!
もう、今までの僕じゃない。
僕には新しい大切なものがあるのだから…
数々の思いを胸に、リオンは謁見の間へ辿り着くと、
息を切らしながら王へ問いかけ始める。
「おぅ、リオンか。昨日の村の様子はいかがだったか?」
「…、それよりも…、何故すずを地下牢に放り込んだのですか?!」
唐突なリオンの疑問にあまりの驚きを感じたのか、王も焦り焦り答えを返した。
「それはな…その…、あの子を最初に見かけた人物が、どうやら不振人物のように
状況説明をしてきたものだから、詳しい事情を知るためにもと思って
それで前もって取り押さえたわけなのだ…」
「悪気がないのでしたら、すぐにでも彼女を解放してあげていただけませんでしょうか?」
「そちがそこまで言うのなら仕方がない。けど、責任までは負えぬ。
あとはリオン、彼女をそちに任せるとしよう…」
「ありがとうございます。あの子は僕が見守っていきますのでご安心下さい」
「よし、任せたぞ…」
早速王は兵士を数人呼び出しては、すずの取り抑えられている地下牢へと駆けつけ、
リオンもその後についていく。
すず…、待っててくれよ。すぐに向かうからな…。
同時に、リオンの心の中では、愛しい恋人を迎えるような情景が見えていた。
地下牢では、すずは既に食事を済ませており、一人座り込んで眠りに入るまで
じっと大人しく動かずにいた。
そこに、リオンを挟んで兵士達が牢の鍵を外し始め、釈放の許可を訓える。
その時すずは、無事に解放された喜びと共に、目の前に立っている
愛しきリオンを一線に見つめ上げ、そして涙を貯めた。
「すず…無事だったんだね?」
「はい…。リオンさん、私切なかったのです。このまま飢え死になってしまうのではと
思いつめていて、それで、ずっと貴方が迎えに来てくれることを祈っていました…」
すずの目には、愛しい人への未練がじんわりと表れだし、そして大粒の涙に変わった。
リオンは彼女へ両手を差し出し、それはすずの帰る家を象徴しているようにも見えた。
あまりに切なかったのか、感情を堪えきれなくなり、
涙が無意識に溢れ出たのも気にせず、リオンの胸に立ち上がりだす…
「リオンさん!……」
「すず…もう大丈夫だよ。一緒に帰ろう…」
リオンは珍しいと言っていいほど優しい言葉と同時に、すずを温かく抱擁をした。
すずはリオンの胸に抱かれながら、心の中だけでそっと呟いた。
私には愛しい人が現われたのですね。
忍者は非情でなければいけません。しかし…
私は愛するものがある限り、忍びとしての身を捨ててもかまいません。
まだまだ私は未熟ですけど、リオンさんとなら上手く過ごしていけるに違いないです。
一方リオンも、すずの柔らかな長い髪を撫でながら、心で頷いている。
僕は生まれてから、人の優しさに触れたことなど、殆どと言っていいほど無かった。
それに、僕は自分を捨ててばかりいた。
本当の人間の真心を忘れたまま、一度身を失ったことがある。
でも、僕を信じてくれた人が存在している。
仲間は勿論、今一番愛しいすずが僕のそばにいるのだから…
これからは本当の幸せを感じ続けていたい…
少し場所を離れて、兵士達はリオンとすずの小さな愛情を見守り続けていた。
二人は城を後にすると、街中を少し歩くことにした。
ふと、二人の目に見えたのは、屋台のアイスクリーム屋だった。
リオン自ら、すずに話しかける。
「すず、甘いものは好きか?」
「はい。私、甘いものが大好物なのです」
「それじゃ、あそこの店でアイスクリームをご馳走するよ」
「ありがとうございます」
早速リオンはすずの手を繋いで、店へ導き始め、それぞれ好きな種類を注文する。
すずにとって、アイスクリームは初めて口にするものであるため、
冷たい感触もその時は分かる筈がなかった。
注文したアイスクリームが出来ると、二人は片手にとって口にし始める…
「…うっ!冷たい!」
「はは…、すずはアイスクリームが初めてだったか…。
アイスクリームはこういうお菓子なんだよ」
「…でも、甘くて美味しいです」
すずは冷たい感覚を我慢しながらも、初めて味わうアイスクリームに満喫していた。
脇でリオンは、甘いものを喜んで食べるすずを、とても可愛らしく見つめている。
僕には、母親の代わりであるマリアン、それに姉のルーティがいるけど、
すずは僕にとって妹のような小さな恋人なのだな…。
一見戦士のような格好をしているけど、笑った時の表情がとても可憐だ。
このまま、すずの傍にいてあげたい…
リオンの心の中で、新たな決意が現われていた。
その夜、リオンはすずに自分の住む家を案内し、そこに泊まるように訊ねた。
すずも温かく承諾をし、二人は同じベッドで寝ることにした。
丁度窓際にベッドがあるため、夜空を見ることも簡単である。
昨夜と変わらない月を共に眺めながら、リオンはすずに頷き出した。
「ところで、どうやってこの街へ辿り着いたんだい?」
「あの…それは…、実は奇妙な幻に包まれて、ふと気がついたらこの街へ…」
「その、幻と言うのは?」
「あちらの世界で、私はモンスターに襲われた人を助けるため、
モンスターに立ち向かって術を発したと同時に、突然目の前に光が発生したのです。
その光が私の身を包み込んで、それから見ず知らずの空間に身を取られているうちに、
いつのまにかこの場所に蹲っていたのです…」
「なるほど、そうだったのか…。
…そうだ、明日一緒にその光の手掛りを探し出してみないか?」
「はい。是非一緒に探しましょう。何かの情報が見つかれば、可能性もありますし…」
「そうしようか。それじゃ、今日はそろそろ眠りに就こう…」
「はい。おやすみなさいませ…」
こうして、二人は同じベッドで向かい合うように眠りについた…。
次の日、二人は目を覚ますと、軽く食事を済ませた後、早速出掛け始める。
二人が向かったのは、ダリルシェイドの遥か北東に位置する森林の奥にある、
ストレイライズ神殿である。
これは、リオン自らの判断によって決めた目的地であったが、
ここからだと、神殿までは時間をかなり費やすことになる。
そこで、街の郊外まで辿り着いてすぐ、すずの忍術・葉隠で
空間転移をしながら移動した。
リオンにとって、この瞬間は珍しかったので、多少の驚きを胸に感じている。
予想よりも早く、神殿の入り口まで辿り着くことが出来、
早速建物へと足を運び始める。
玄関を開けると、そこには女神の像に一人礼拝をしている
アイルツ司教の姿があった。
「あっ、リオン殿、お久しぶりです。今日はどう言ったご用件でしょうか?」
「ちょっと調べたいことがある。知識の塔をお借りしたいのだが宜しいか?」
「えぇ、宜しいですが、どういった内容をお調べに?」
「えっと…、こちらの彼女、すずだけど、つい先日、この付近で奇妙な光に
遭遇したらしく、それがどうやら時間と場所を転移する性質になっているらしい」
「それは珍しいお話で…。我々の方も何とか調査してみることに致しましょう」
「お願いします…」
すずも丁寧にアイルツに敬礼をし、先ず該当する分類の本を3人で検索してみた。
書籍を調べて1時間と数十分後、しかしながらこれと言った切欠が
結局は見つけることが出来ず、すずは半分失望感を抱き始めていた。
「すず…」
「…はい、…」
「動揺していないか…?」
「でも、原因が分からないままだと、私も故郷の状況が分からないまま、
この世界にずっと生きることになりますし、ついでにリオンさんにも私の住む里を
案内しようかなぁとも思っていましたので…」
そこに、一人のローブを纏った老人がやってきた。
リオン達の姿を認めると、のこのこと歩み寄ってきて、そして話しかける。
「お主達、何か探し物かね…?」
「はい。実は……」
すずは老人にこれまでの事情を話し始め、老人は耳を傾けながら何か納得をした様子だ。
リオンも心配そうにすずと老人の会話を聞いていた。
「…ふむふむ。…ほっほっほ、そのような事じゃったらわしに任せておくれ。
長年、ず〜っと幻想の研究を積み重ねて来たわしじゃ。どうか信じてくれないかい?」
「爺さん、何か方法が分かるのか?」
「そうじゃそうじゃ。…これからわしが教えることをし〜っかり聞くのじゃぞ」
リオンとすずは、姿勢を取り直すと、老人の教えに集中し始めた。
老人の話によると…
この神殿の周辺に青いカトレアの花が咲いていて、それを数輪手に入れたら、
森林の何処かにある神の涙と言う清水が流れてある場所へ行き、
その水を瓶に半分くらい入れ、先ほどのカトレアの花を水の入った瓶に入れる。
そして最後に、エクスプロードの石を2個集め、瓶の蓋を開け、そこに2つの石を
摩擦して火を点し、瓶の口に火を移せば光の空間が生じる。
…という話であった。
「よい知恵をありがとうございます。早速探してみます」
「おぅ、頑張るのじゃぞ。それと、清水と石はかけ離れた場所にあるから、
それを注意するのじゃよ…」
老人に強く感謝の意を表すと、二人は神殿を後にし、
先ず最初に青いカトレアの花を探し始めた。
その日の草原は穏やかな晴れ日和で、空一面に小鳥が飛び回る光景である。
すると、小鳥の一群れが何処かの地面に下りる様子を認めた。
すずはその場へ駆けつけると、一面に青い花が散らばるように咲いていた。
「リオンさん、これがお爺さんの言っていたカトレアでしょうか…?」
「あっ、それだ。確かにカトレアだな…」
すぐに二人は何輪かカトレアを摘み始め、ある程度集めると今度は、
森林の方へと入っていった。
地面にある大きさが曖昧の岩石に気を配りながら慎重に進んでいく。
木と木の間から射す太陽の日差しのおかげで、森林の中が分かり易かった。
しばらくすると、向こう側から小川のせせらぎのような音が聞こえてきた。
二人は足もとの岩石を跳び渡りながら、その場へ向かう。
そこには、岩と岩の間から碧色にキラキラ光る清水が流れていた。
リオンは早速、フレアボトルの空瓶に水を入れ始める。
「これが爺さんの言ってた神の涙に違いない。
あとは、エクスプロードの石を探すのみだな。そう言えば、この清水と
反対の方向に位置すると言ってたなぁ…。ここが西であるから、
東の方へ向かえばいいのだ。よし、すず行くぞ」
「はい!」
リオンが清水を入れた瓶に、先ほどの摘んだカトレアを詰め込み、
蓋を閉めると二人は東の方角へ歩き出した。
森林を通り抜けていく途中、段々気温が上がっていくのに気付き、
森を抜けた所の岸壁沿いに着くと、そこには橙色に日光を反射している小石が落ちていた。
すずはそっと手を触れてみると、若干熱さを感じたのか、すぐさま石を手放す。
「…待て。この小石こそ、エクスプロードの石ではないのか?」
微かに首を傾げながら、すずはもう一度石の特徴を観察してみる。
確かに、石の種類の中でも珍しく、色と温度の違いで該当する石だと判る。
「そうですね。これに違いありません」
すずは自分の持っていた手拭いで石を2個拾って包み込み、
最後の肝心な光を点す場所として相応しい所を話し合って決めた。
すずが光に遭遇したのは、確かオリーブヴィレッジだった…
そうすると、気温の高い場所に光が生じ易いと悟ることが出来る。
ようやく話し合いを終えると、早速リオンは瓶の蓋を開け、
すずは岸壁の方を向かって石を摩擦し始める。
「すず、準備はいいか?」
「…はい。今火が点りました」
「よし、早く瓶に移してくれ」
「了解です」
すずは徐々に火を瓶の口に移し始め、瓶に火が点って間もなく、
炎が光に変わり、みるみる膨張していき、
そして、二人をその場所から空間を切断した…
これでやっと、里に帰れるのね…。
果して、故郷は無事に平和なのだろうか…。
リオンさんにも、私の生まれ育った、あるがままの平和な里を見せてあげたい。
そして、お爺さんから教わった知識を大切に、
これからは二人で時と空間を行き渡ってやっていきたい…
すずの願いは、そのままトレントの森への転移を祈る懸念に変わっていった…
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