〜本章1〜
…次の日、ダリルシェイドでは、数人の兵士が一人の老人に
何か手掛りを訊ねていた様子だった。
老人は焦って言葉を途切れながらも、ある時の状況らしき説明を聞かせる。
「それで、間違いはないのですね?」
「そ…そうじゃよ。あの衣類はわしが生きてきて一度も見たことがなかった。
…だから多分、人間の格好をした生き物に違いないのじゃ」
しぶしぶ老人の以来を承知し、兵士達は街の境にそれぞれ足を運び始めた。

すずは目を覚ますと、昨日遭遇した光を探しに森の中を歩き始めた。
しかし、目に見える光景は、木の間を照らす太陽の光と、鳥の囀る様子であった。
いくら歩いても、目にするものは変わり無く、光らしきものなど見つからない。
ここは本当にトレントの森なのだろうか…?
…ところで、昨日お会いしたリオンのことも気になる。
そこですずは、リオンの住むダリルシェイドへ向かうことに決めた。

森を出て数時間後、すずはようやく街へ到着し、
早速近くの住民にリオンの住んでいる場所を訊ねようとしたその時…、
向こうから数人の兵士がすずの姿を見つけ出し、突如走り寄ってきた。
「間違いないです。この少女が昨日現れた不審人物に違いないです」
すずは一瞬状況を把握できなかったが、すぐに訊ねだした。
「私は…、私はリオンさんにお会いしたいだけなのです…」
「問答無用!すぐに城まで来てもらおう…」
依頼を聞いてもらえないまま、無抵抗に目的地まで連れて行かれた。
私は何も悪い行為などしていないのに、どうしてなの…?
すずは、彼らの言う事情が無実であることを、心の中で願い続ける。

取り抑えた兵士達と共に、すずは城内の謁見の間まで足を運んだ。
そこには、大柄で高価な椅子に深く腰掛けた、貴族らしき姿の男がいる。
彼こそがセインガルド王国を管理する、王である。
「申し上げます。昨日目撃された不審人物の少女を連れて来ました」
「ご苦労であった…。…さて、話を聞かせてもらおうか…」
するとすずは、兵士に王の目前まで突き放されると、素直に理由を話し始めた。
「私はリオンさんにお会いしたかったんです…」
「何?!リオンにだと?!彼は我が国率いる次期将軍に候補を挙げている一人だ。
決してそちのような者に会わせるなど、無駄に過ぎない。
…少女を牢まで連れて行ってくれたまえ!」
「かしこまりました」
再び兵士に取り抑えられながら、すずは地下の牢屋に身を投げ飛ばされ、
そして鍵を掛けられた。
もう、二度と帰れないのね…
このまま私は飢え死になるのだろうか…
そう心の中で呟いていると、突然自分の住む里のことを思い浮かべ始める。
両親がまだ魔族の使者達に洗脳される以前、いつものように自分を可愛がってくれていた。
そんな優しかった両親も、変わり果てた姿で現れた時には、流石に泣きそうだった…。
最後に父と母は、互いの首を刀で突き刺し合って…そして死んでしまった。
もう、母の愛情を受け入れることができなくなった…
もう、父から教訓を教えられることなどできなくなった…
…何度も何度も悲しい思い出がすずの脳裏に浮かんでしまう。
…私は忍者。感情は忍者という誇りを汚してしまうもの。
…しかし、このまま時に流されるままでいいのだろうか?
すずの目から、一粒の涙の雫が落ちた。
その涙は、悲しみの涙ではなく、切なさが現れていた。
…感情を堪え続けているうちに、いつのまにかすずは眠りに入っていく。

日が暮れる頃、一人の女性が謁見の間に姿を現した。
彼女こそ、7将軍の中で唯一女性のミライナ・シルレルである。
彼女は一見しなやかな仕草とはうらはらに、戦闘となると誰よりも素早い動きで、
鍛えられた精神力を披露している。
また、老若男女問わず、誰でも彼女を憧れの的にしているのである。
「ミライナよ、今日もご苦労であった…」
「はい。…ところで、王にお願いがあります。
先程取り抑えられた少女との面会の許可を頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」
「突然何故(なにゆえ)に?」
「あの子と女性同士、お話をしたいと思いまして…。その、彼女の真実を明らかにする
手段の代わりと致しまして、元気付けをしてあげたいのです」
「そうだな…。ミライナに出来ないことはない。どうか宜しく頼む…」
「有難うございます」
そして、ミライナはすずの入れられている地下牢まで歩き出した。
辿り着くと、すずは丁度出された食料をしぶしぶ口にしている様子だった。
手前に足を踏み入れると、静かにしゃがみこんで優しくすずに声をかける…。
「すずちゃん…」
「はい?」
「一人ぼっちで寂しくない?」
「…えぇ、寂しくないと言えばそうでもないです。しかし…」
「分かるわよ、その気持ち。私もね、子供の頃よく外で遊ぶのが好きだったの。
丁度その頃、私の両親は共に戦士だったから、いつも父と母の面影を見ていて、
私も大きくなったら戦士になりたいなぁって夢見てたのよ」
「貴方のご両親も、戦士だったのですね…」
その時のすずの目には、ミライナの優しい瞳の奥に心強さが見えていた。
しかし突然、ミライナは過去の思い出を振りかえったのか、
寂しい表情に切り替えていく…
「…でもね、ある日、セインガルド侵攻が勃発して一月経つ頃に両親は戦死したの。
私、どれだけ悔しくて泣き崩れたのだろう…あの頃は…。
あの時、私にもっと力があったのなら、両親を助けられたのに…。
そればかり心で悔やんでいたわ、当分の間…。
…それから本気になることが出来て、
今自分にできることは人一倍頑張って一人前の戦士として認められたい。
そして天国の両親にも最高の恩返しをしてあげたい。
と言う願望を強く持つようになったのよ。
だから、すずちゃんにも必ずその達成感が持てる日がくるよう、応援してるわよ」
「ありがとうございます。おかげで私、頑張る気持ちが持てました」
また普通の笑顔の表情に戻して、ミライナは再度すずに訪いかける。
「ところで、どうしてこの街を訪れてきたのかしら…?」
「昨日…初めてリオンさんという方とお会いして、それで彼のことが忘れられなくて、
今日再びお会いしようと思っていたのですが…何故か兵士に取り抑えられて…」
「そうだったんだ…。でも、すずちゃんは何も悪いことはしたんじゃないでしょう?」
「はい…」
「忘れられない…となると、もしかして…。でも、すずちゃんも年頃だもんね…」
「そうですか…?」
「そうよ。一つの心の芽生えでもあるわね…」
「えぇ…多分…」
「大丈夫よ、すずちゃん。リオン君のことはお姉さんに任せなさい」
「ありがとうございます」
こうして、ミライナは優しい笑みを見せ、すずに励ましの印を表す。
ミライナに挨拶を交わすと、すずはふと心の中でミライナの熱い心情を感じ始めた。
まるで、自分の姉のように優しい友情。
一人の女性としての強さ。
そして、人へ対する誠実な思いやり。
どれも、すずの心に印象付ける魅力であることに、間違いはない。
私もミライナさんのような、立派な女戦士になりたい。
父上、母上…、天国で私を見守っていて下さい…
すずはそう心で誓い始めた。

私、必ず…いや、絶対に強くなる。そして、リオンさんに認められたい…
…少女の心は、決意と共に、恋の第一歩を踏み出す思いが芽生え始めていた。

 

〜本章2へ続く〜

 

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