〜序章〜
ここはユミルの奥深くに存在する小さな村…
そこは忍びの者だけが住む所、通称“忍者の里”。
その里に、まだ12の年を迎えないくらいの幼い少女が今日も一人で訓練に励んでいた。
少女の名は…すず。
彼女は小さい頃から忍びの稽古を続けているのか、
人一倍に忍耐の強い心でいつも忍びの掟を守り通しているのである。

そんなある日のことである。すずは一つの決意を果たそうとする。
それは…、一人前の忍者になるための訓練として、長い旅に出ることであった。
祖父・乱蔵は、彼女の強い意志に心から承諾し、
喜びを胸にすずは里を旅立ち始める…。

歩き始めてもう1週間が過ぎる頃、すずは遥か南東部にあるフレイランドへ辿り着いた。
そこは一面の砂漠地帯…
水平線に蜃気楼が漂う熱帯地域だが、湿度は殆どと言って良いほど少ない。
すずは早速、水のある場所…オアシスを探しに別方向へ歩き出したその時、
彼女の前方からワニのような猛獣がずるずると近づいてきた。
…どうやら、バジリスクのようだ。
特有の石化光線の構えで、すずへ攻撃を試みようとするが、
すぐさま、すずは地面を蹴りだし、忍刀を突き立て、忍術を発した。
「忍法、雷電…!」
ビリビリビリ……!!!
忍刀に集中して放射線のように生じた電流によって、バジリスクは感電死したようだ。
モンスターが退化したことを悟り、すずは投げ出した忍刀を拾った瞬間、
仰向けになっていたはずのバジリスクが再び起きあがっては、すずの姿を認め、
狂暴な攻撃体制で襲いかかってきた。
しかし、すずは一つも恐れず、素早く回り込んでは忍刀を構え直して迎え撃つ。
そして、再び忍術を放ち始めた…
「忍法、鎌鼬!!」
すずの身から放たれた無数の風の刃が、バジリスクを斬り裂いていく。
忍術が放たれ終わると、バジリスクの身はバラバラになった。
刀に付いた黒く滲んだモンスターの血を紙で拭き取りながら、すずは静かに頷く…
「…、虚しいものですね…」
刀を拭き終えると、周辺に散らばっていたバジリスクの鱗をいくつか拾い始めた。
「これが、バジリスクの鱗ですね…」
ダオスとの壮絶な戦いが幕を下ろしても、まだまだ狂暴な野性のモンスターが
あちらこちらに生息している状況であり、中には人間に危害を加えているものもある。

歩き始めてもう数時間が経とうとし、日が徐々に西の方角へ近づいていく光景の中、
すずはある場所を思い出した。
確か、この近くにオリーブヴィレッジという集落があったはず。
今夜はそこに泊まることにしよう。
そう考えながらすずは木陰に座り、少しの休息をとろうとした。
その時、ふと顔を見上げて目に映ったのは、モンスターが人を襲おうとしているところだ!
すぐに立ち上がり、目の前の泉を飛び越え、救助へ向け始める。
そのモンスターは、クレス達と共にダオス討伐の旅をしていたすずでさえ、
見たことのない猛獣だった。
猛獣の頭上を跳び上がり、すずは素早く忍術を放ち出す…
「忍法…飯綱落とし!!!」
術がモンスターに的中しようとしたその時…!
突然彼女の身に強風が吹き荒れ、モンスターの身体から奇妙な光が放ち始め、
同時に、すずの姿を飲みこむかのようにその場所から彼女を封じこめたのである。

見覚えのない、眩しい光の空間…
気がつくと、足元が地面についていない。
どうやら無重力の空間に遭遇したようだ。
果して、無事に村へ帰れるのだろうか。
ところで、先程のモンスターは一体何だったのだろう?
あの人は無事だったのだろうか?
すずは心配で落ち着きを取り戻せなかった。
考え込んでも仕方がない…
そう思い直し、すずは周囲の動きに身を任せ、しばらくその空間の様子を見ることにした。
光に包まれて数十分後、再び動きが変わり始める。
何も描かれていない真っ白なキャンバスのような空間が突然歪み出し、
すずが不安を抱えていた中で、目前に小さな渦模様が生じ始めた。
その渦に辺りの空気が吸い込まれていき、すずの体も同時に導かれていく…
すると、今度は辺りが真っ暗になり、足元が地面についているのに気付く。

ゆっくりと目を開け、辺りの風景を見渡すと、今まですずが訪れたことのない街並だった。
ここは一体何処なのだろう…
そう思うと、蹲っていた場所から立ち上がり、何かの鍵を見つけようと街を歩き始める。
やっと街の中心付近に着いたその時、一人の青年が彼女の真っ先を横切っていくのに
気付き、彼なら何か道が分かるのではないかと悟りながら後について行くことにした。
青年はどうやら郊外へ向かうらしい。
やがて、森林へ入り、人影も殆どと言って良いほど無く、
耳にするのは、木の葉の風に靡かれる音と鳥の囀りだけである。
普通に路を歩いていては、尾行しているのではとすぐに判ってしまう。
そう考えると、すずは木と木の間をすり抜けるように通ることにした。
トレントの森が遊び場だった彼女にとっては、
森林の中を通り抜けていくことは簡単である。
歩き続けて数時間後、前方に小さな村が見えてきた。
…ところが、その村はすずが住んでいる感じとは全く異なっていた。
もう、二度と故郷には帰れないのだろうか…
寂しい表情をしながらも、すずは青年の後に続く。
彼は何も持っていない様子から、どうやら村の偵察に来たらしい。
ふと、青年は遠く離れた森林に突風が吹いているのに気付き、
不思議そうに首を傾げながら頷いた。
「何だろう?あれは…。今日の天候は風が吹かない筈なんだけどなぁ…」
それは、すずの発した忍術・葉隠で起きた現象である。
いつのまにかすずは木の枝に腰を下ろし、ずっと彼の様子を眺めていた。

やがて少年は村を後にし、再び今度は逆方向に向かい始める。
自分の住む町へ戻って行くようだ。
…その時、少年の帰途に狂暴化した猛獣が数匹、彼の方に走ってきた。
それまで数十匹のモンスターを倒してきた“彼”であり、
技を立て続けに発していれば簡単に倒せるようだった。
しかし…すぐさま少年は、剣を抜き出して攻撃に入ろうとするが、
モンスターの鋭い動きに身をとられそうになりかけた。
そこにすずが突風に煽られながら姿を現し、即行に忍術を発する。
「忍法、五月雨!!」
素早い連続斬りにより、猛獣らを思ったよりも簡単に倒すことができた。
青年は一部始終をずっと見続けているうちに、
すず自身に自分の心が揺れ始めたのを感じ、そして彼女に頷く…
「フン…余計なことを…」
すると、忍刀を収めると、すずは青年の方を振り向き、返答を返した。
「でも、貴方の尊い命が危ない状況でしたので、放って置けなかったのです…」
と、物静かな表情でその場を去ろうと歩き出したその時、
青年は彼女を止めるかのように再度声をかける。
「…待ってくれ。お前の名前は?」
すずは黙って青年の方へ姿を向けると、さり気に答えを返す…
「…すず」
「すずと言うのか?」
軽く頭だけをお辞儀させ、すずはふと青年の顔を見上げた。
…透けるような黒い髪
…整った端正な顔立ち
…まるで若い紳士のような凛々しい容姿
すずは、今までに見たことのない特徴の彼に、気がつくと心を打たれていた。
「あと、それと…僕の名はエミリオ・カトレット。リオンと呼んでくれ」
「リオン…さん、…ですね?」
「あぁ。僕はこの先のダリルシェイドという街に住んでいるので、以後宜しく…」
「はい。承知致しました…」
「…あと、もしよかったら一緒に街へ帰らないか?」
「いえ…、お気持ちだけで…」
…その時、さぁっと一陣の風が吹いた。
「くっ…」リオンは思わず顔を伏せる。
風が止み、顔を上げた時にはすずの姿はなかった。
「すず…か…」
その時リオンは、自分の中に新しい感情が芽生えている事に気が付かなかった。
何故なら、彼はその時、胸の高鳴りに自分でも動揺していたからなのである…。
間もなく、リオンは胸を抑えながら歩き始める。
そんなリオンを、すずは木の上から眺めていた。

日が暮れ、空に星が光り始める中、すずは森の中を黙々と進んで行く。
しかし、どんなに歩いても、先程遭遇した光らしきものが見当たらない。
どうすればいいのだろう…
そればかり心の中で呟きながら、すずは若干焦りを感じていた。
自分の帰るべき場所、トレントの森を見つける事が出来ず、
仕方がなくその夜は木の枝で野宿をすることに決めた。
やがて夜になり、月がじんわりと姿を現し、
森の一面を照らし出した頃には、すずはもう疲れ果てていて、
木の幹に寄りかかり、早速眠りに就こうとするが、何故か眠れなかった。
先程出会ったリオンの面影が、彼女の心に矢を刺したに違いない。
リオンの動揺とほぼ同じくらいに、すずは初めて切なさを覚え始める…

同じ頃、空に星が瞬きはじめ、
リオンは2階のテラスで、月光を明かり代わりにして本を読んでいた。
しかし、なかなか活字に集中出来ず、ふと星空を眺め始めた。
そして無意識に言葉を呟き出す…
「すず…か…また会えるのだろうか…」
いつのまにか、すずのことが忘れられなくなり、心で星空に願いを唱える。
きっと、また会えるだろうと…

その時、二人は同じ月を見上げていた…

 

〜本章1へ続く〜

 

〜もどる〜

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