〜本章2〜
空が徐々に明るくなっていく。
マリーはふと目を覚ますと、隣のベッドで眠っているクラースを起こし始めた。
「おはよう、クラース。そろそろ宿を出ることにする…」
マリーの呼びかけで目を覚ましたクラースはベッドから起き上がると、
片手で目をこすりながら脱ぎ捨ててあった上着に袖を通す。
「いよいよだな…、私の住む世界を案内する瞬間がくるのは…」
「そうだな、私も楽しみだぞ」
マントを羽織ると、二人は受け付けに部屋の鍵を置いて、宿屋を後にした。
街並は薄い霧に覆われており、多少視界が悪かったが、
マリーは道を覚えているのか平気だった。
「この街のすぐ北に、神殿への入り口がある。そんなに道程もないからすぐに着けるぞ」
「了解」
早速マリーのリードにより、街を出てすぐ右にある小道へ入っていった。
クラースのエターナルソードから、マクスウェルの声が聞こえてきた。
『主よ、いよいよ今日世界転移なるものを探し出すのじゃな…』
「あぁ、見つかるといいのだが…」
『主たちのために、我々は時の剣に特殊な威力を精製しておこう…』
「宜しく頼む…」
すると、クラースの持つ剣から声が聞こえたのか、
マリーも気がつくとクラースに呼びかける。
「クラース、その剣は人との会話をできるのか…?」
「あぁ…いや、この剣には私の契約した精霊が身を封じているんだ…。
今回世界転移の切欠を見つけるために、再びこの剣に威力を加えてくれる…」
この時マリーは、クラースがどうやって精霊を召喚するのか、少し理解した様子だった。
30分後、目前に古びた建物が見えてきた。
マリーが特徴を確認したのち、該当する神殿であることが判った。
クラースは恐る恐る、モンスターが現れるかどうかを思いながら、
片手に持っていた魔科学の本を強く握り締めている。
入り口から真っ直ぐ行った突き当たりに、3つの奇妙な台座が設置してあった。
マリーの説明を他所に、クラースは台座についているスイッチに手を触れ、
瞬間、不思議な浮遊物に身を獲られてしまう…!
すぐさま、マリーがスイッチを押し直し、クラースを救助したのち頷く。
「この台座のスイッチは、無闇に手を触れるものでないらしい…。
台座そのものの特徴も、未だ解明されていないようだ……」
「はぁ…びっくりした…。何が起きるか判らなかったからな…」
息を切らしていたクラースを少し落ち着かせ、その周辺には特に変わったものが
ないことを認めると、マリーは再度手掛りを思いついたらしく、提案を始めた。
「……、特に何もないらしい…。ここを出て左手の方向に洞窟の入り口がある。
そこだと何か手掛りがあるようだが行ってみないか?」
「そうだな…、この剣が反応しない限りは、まだ手掛りが見つかっていない…。
早速その洞窟へ向かうとしようか…」
クラースは呼吸を取り戻してすぐ立ち上がり、台座の部屋をあとにする。
洞窟の入り口が見つかると、マリーは改めて注意を促す。
「ここにも先日より狂暴でないが、モンスターが時より現れる。厳重に進んでいこう…」
「了解!」
天井があちこち崩れていて、空の光が点しているため、
洞窟の中はそれほど視界も悪くなかった。
足元に気を配り、慎重に進んでいく途中、数匹のナメクジやコウモリが出現した…!
「クラース。手を抜いてはいけない。こいつらはモンスターだ!」
剣を抜き出すと、マリーは速攻に技を発し出す。
その背後でクラースは召喚の体勢を取り始める。
「魔神剣・改!!」
幾度とマリーの発した技が命中しても、懲りずにモンスターは襲いかかってくる。
詠唱を済ませ、クラースが精霊を召喚し始めた…。
「出でよ!イフリート!!!」
するとマリーの目前に炎の精霊・イフリートが姿を現し、
挙げた片腕から発した無数の火の玉をモンスターへ投げつける。
炎を喰らったモンスターはじりじりと焦げ、退化していった。
気配が元に戻ったのを確認し、再び歩き始める。
地面が平らになってきた所まで辿り着くと、マリーはあるものを目にした。
そこには、微妙に低い段差の真中に立ててある、
人間の身長くらい高いアンクの飾りらしきものである。
周辺の特徴を調べている中、エターナルソードからオリジンの声が聞こえてきた。
『主よ、目の前に見えるアンクがどうも怪しいが……』
「オリジン、気づいたか…」
『今、主たちが見ているアンクの下を見よ。何か文字が刻まれているだろう…?
そこに、主の持つ剣の柄を持ってきてくれないか…?』
「わかった…」
クラースは静かに、エターナルソードをアンクへ近づけていく。
突然反応を示したのか、アンクの先が光放ち出した。
『今だ!アンクの先に主の剣を通しておくれ…』
早速指示通り、剣をアンクの先に通してみる。
マリーの顔にも緊迫が現れてきた。
しばらくすると、二人の立っている周辺が動きを起こし始めた。
光の壁が生じ、瞬間、二人の身の回りに突風が発生し出す。
『これで、主の世界へ転移することができるな…』
「ありがとう、オリジン…」
こうして、その場所から空間を切断し、二人を異次元の世界へ導いていく。
ようやくミラルドと再会ができるのだな…。
自然エネルギーに恵まれた、私の世界をマリーに見せてあげたい。
そして、また新しい研究にも取り組んでみるとするか…
辺りが暗闇に変わり、突風に身を煽られながら二人は目を瞑る…。
足元が地面についているのに気づき、静かに瞼を開いて辺りを眺める。
ここは、広々とした草原地帯…
向こうに見える建物は確か…アルヴェニスタ城…
クラースは見覚えのある景色を確認すると、すぐにマリーへ頷く。
「マリー、着いたぞ。ここが私の生まれ育った世界だ。
そして、あそこに見えるのは、私が魔科学の研究に努めた都だ」
「ここがクラースの住む世界なのだな…。なかなか穏やかな世界じゃないか…」
先ずクラースは、アルヴェニスタを案内することにした。
少し歩けば到着する距離であるため、モンスターも現れないだろう。
マリーは心を弾ませながら、クラースのあとへついていく。
アルヴェニスタに到着した…。
一見何も変わらない光景だが、数歩歩くと、近くで何か騒がしい人込みが見られた。
何だろう?と好奇心を抱き始め、クラースは少し駆け足でその場へ向かっていく。
マリーも焦り焦り彼のあとを追い、人込みの中へ入っていくが、しかし…、
クラースの姿を見つけられたものの、彼の表情はいつのまにか唖然となっていた。
「ミラルド……どうして?……」
クラースが目にしたものは、白いドレス姿のミラルドと、
その横に立つレアード王子の姿だった。
マリーは、クラースが今どんな心境であるのかを、その時解らなかったが、
元気付けようと人込みから離れた場所へ足を運ばせ、
そしてクラースへ問い掛ける。
「クラース…、一体どうしたと言うのだ…?」
「貴方も見ただろう?白いドレスの女性を…。あれが、幼馴染であるミラルドだ…。
まさか、私のいない間に変わり果てていたなんて、とても信じられない……」
「あれは…、結婚式だったんだな……」
心に衝撃を受け、両手で頭をもがくクラースを、
マリーはそっと彼の背中を撫でながら、彼女自身の思い出と照らし合わせてみる…
貴方が今心の中で何を感じているのか、私にも解る気がする。
久しぶりに再会できたものの、変わってしまった恋人の姿を見た衝突感…
まるで、私がダリスとハイデルベルグで再会した時と同じ心境を、
今、貴方は抱いていることだろう…。
大切なものをいつのまにか喪失された瞬間…
人は誰しも心の脆さを抑えきれなくなってしまうものだな…。
でも、その溝を埋め込んでいく強さが、
生きている私達にとっていかに重要なのか、考えなければならない。
私でよければ、今後貴方の力になって差し上げてもいいぞ。
私だって、一人でいるのはやはり寂しいからな…
…しばらくして、クラースは顔を上げ、マリーの目を見ると微かに頷いた。
「郊外へ移らないか…?この場所はどうも、私には心残りになるだけに過ぎない…」
「そのほうがいいぞ…。少しの間静養して、また私に世界を案内してくれ…」
「あぁ…」
二人はその場から立ち上がり、町の郊外へ歩き始めた。
アルヴェニスタの郊外は城下と違い、静かな雰囲気である。
路の交差点辺りまで足を運ぶと、脇に小さな宿屋が建っており、
二人はそこで部屋を手配することにした。
主人に案内され、部屋へ入ると突然…、
クラースは頭を抱えながら床に倒れこんでしまった。
マリーは驚きを感じて、クラースへ呼びかける…
「どうした?!大丈夫か…?!」
どうやら、クラースは精神的苦痛からなる発熱を起こした模様だ。
急いでマリーは、クラースをベッドへ寝かせ、簡易に手当てをしながら提案を述べる。
「どうか休んでいるのだぞ。今から食料を買出しに行って来るからな…」
「マリー…すまない……」
クラースが安心して静養に入った様子を認め、マリーは一人買い物へ出掛けた。
食材屋へ向かう途中、珍しい店を発見し、不思議そうな表情で入っていく。
壁際といくつかの仕切りに並べてある本があるところから、書店であることが判った。
点々と本を見ていく中、マリーは1冊の本を発見する。
「これは…」
本を手にとってみると、表紙に見覚えのある名前が記されてあった…
“クラース・F・レスター”
半分興味を持ち始め、一通りページに目を通していく。
読んでいくにつれ、段々クラースの魅力を感じていくマリーである。
クラース、貴方はこの世界で偉大なる研究に努めたのだな…。
この世界では、人間が魔法を使うことは不可能だと言われているそうだが、
貴方は自らの可能性に賭けて活躍してきたに違いない。
まだまだ、互いの世界で衝動と偶然が存在していくことだろう…。
それらをどのように受け止め、そして養っていくのか、
我々人間には必要なのだな…
そして、マリーは本を購入すると、店を後にした。
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