〜本章1〜
朝がやってきた…
クラースは静かに起き上がり、横のベッドで熟睡しているマリーの顔を見つめる…。
そうだった、私は昨日この街に転移してきたのだった。
マリーが目覚めないうちにオリジンを呼んでみよう…
早速クラースは静かにオリジンを呼び出す体制に入った。
「…オリジン」
すると目の前にオリジンが姿を現し、クラースに頷く。
『主よ、私を呼んだかね?』
「実は今日、世界転移となる切欠をマリーと探すことにしたのだ。
それで、どうか力を貸して欲しいのだけど…」
すると突然マクスウェルも姿を現し、オリジンと相談をはじめる。
その様子を、ただクラースはじっと眺めるしかなかった。
少しして、精霊たちがクラースに提案を述べ始める…
『主よ。これから我々は主の持つ剣に身を雇うことにしよう。それで、
主の付近に手掛りを感じた際に方法をおしえることにする…』
「承知した。では、宜しく頼む」
こうして、オリジンとマクスウェルはエターナルソードに身を封じたのである。
しばらくして、マリーもようやく目を覚ます。
クラースの準備良い姿勢を一目見て、安心感と共に頷いた。
「おはよう、クラース。手掛りとなる場所を丁度思い出したところなんだ。
朝食を済ませたら、ジェノスという街へ行くことにしよう」
「あぁ、任せたぞ…」
彼の微かな笑顔を認めると、マリーは厨房へ足を運び、早速料理にとりかかる。
昨日と同じ通りの様子で、楽しく料理をしている彼女を、
少し離れた場所でクラースは優しく見守っていた。
ミラルドとマリー…同じ女性でありながら特徴は互いに違っている。
でも、それぞれの女性としての強い自尊心がよく解る。
その心を尊重していく強さも、また必要であるのだな…
クラースが心でそう呟いているところに、マリーは料理の出来上がりを知らせる。
「朝食が出来たぞ。干し肉とライスを炒め合わせただけの質素な料理だけど、
いい味出してるんだ、これがまた…」
「美味しそうだな…。いただくとしようか…」
二人は食事に入り、干し肉と炒め合わせたライスを口にし始める。
料理を楽しむ中、マリーはふと頷き出した。
「ところで、珍しい剣を持っているな…。それはソーディアンなのか?」
「ソーディアン?」
クラースが問い掛けると、マリーはスタン達が使用していた
ソーディアンについて語り始める。
ソーディアン…それは人間の心を持つ剣のことを呼ぶらしい。
また、選ばれたパートナーは、それ自身と心を通わせる能力を持つ者のみである。
「人間の心を持つ剣か…。なかなか珍しいものが存在しているのだな…」
「しかし、残念ながらそのソーディアンもこの世界から消えてしまったのだ…。
以前、この世界で天地戦争と言う壮絶な争いが起きていた頃、私も仲間であるスタン達と
共に戦いに励んでいた。あの戦争は破壊から始まる理想に過ぎなかったな…。
それで、世界の平和を取り戻すために最後の手段として、ソーディアン達自ら
身を犠牲にしたというわけだ…」
「酷い話だな…。理想を築くためだけに破壊活動とは…」
その時クラースは、クレス達とダオス討伐の旅をしていた日々を思い出していた。
目標を達成するにあたって、幾度も苦難を乗り越えるのは当然の如く、
同時に犠牲となるものも出てくるのだろう…。
そんな法則を考える度に、ますます心が痛くなってくる。
失うものと手に入るもの…生きていく中で交互に遭遇するものだ。
それを温かく受け入れられる力が、我々生きる人間に必要なのだな…
いつのまにか、話に没頭したせいか、二人はじっと考え事に浸っていた。
ようやくマリーも出掛ける準備を済ませられ、二人はマントを羽織り、外を出た。
街中は一面の銀世界…
地面にはあちらこちら足跡が残っている…
「それでは、クラース、ジェノスはここから北西の方角に位置する。
今からだと、およそ夕方頃に到着の予定だ」
「了解」
そして、マリーはドアの鍵を閉め、サックを背負い、先導して歩き始める。
街外れまで来ると、マリーはクラースのほうを振り向き、注意を促した。
「ここからは森林と平地になるが、時にモンスターが出没するから気をつけるのだぞ」
「あぁ、わかった…」
再び二人は歩き始め、広い平地を点々と進んでいく。
サイリルを出て約3時間後…、前方に狂暴化したウサギや鳥が数匹出現した!
マリーは早速剣を抜き出し、迎え撃つ体制に入り、
クラースも片手に持っていた魔科学の本を構え、召喚の準備に取りかかる…
「猛襲剣!!」
1匹1匹と倒していくにもかかわらず、まだ奥から迫ってくるモンスターを目掛け、
タイミングよくクラースが精霊を召喚して攻撃に入った。
「ヴォルト…!!!」
すると球体になっている精霊が頭上に姿を現し、辺り一面に細い電流を発して
モンスターへの命中を狙い定めた。
電流を喰らったモンスターはすぐさま退化し、じゅるじゅると小さくなっていく。
地面に黒く滲んだ血が散らばり、ガラスの欠片のようなものが点々と落ちているのを、
マリーが雪で磨きながら拾い始める。
「それは何だ…?」
「あぁ、レンズといって、これを飲みこんでいる動物は突然のように狂暴化するのさ…。
レンズを抜き取れば、普通の動物の亡骸ということだ。
また、レンズを集めてオベロン社へ持っていけば、ガルドに換金もできる…」
「なかなかいい仕組みがこの世界にあるのだな…」
全部のレンズを拾い集めると、再び歩き始めた。
ジェノスまであと一日あれば到着するはず…。
ルーティが罠に嵌っていたあの場所なら、何か手掛りがあるのかもしれない。
私もクラースの住む世界を一度訪れてみたいものだ。
追求と期待を胸にるんるんと早歩きを始めたマリーのあとに、
クラースもまめに走りながらついて行く。
日が暮れ始め、サイリルの真西に位置する小さな港町へ到着した。
今日はもう時間が遅い…
するとマリーは、近くに立っている船長らしき紳士に
明日の出港先を訊ね、その間クラースは辺りの街並みを一回り眺める。
数分後、マリーがクラースの姿を見つけ、指を差しながら
ジェノス経由の船が出港することを伝えた。
クラースの顔にも安心感が表れ、二人は近くの小粋な宿泊所へ足を運ぶ。
モンスターとの戦闘でかなり体力を消費したため、
クラースとマリーは夜に入って間もない時間に熟睡を始めた…。
次の日の朝、太陽の日差しで二人は目を覚ました。
疲労が完全に抜けていないせいか、マリーが肩を幾度も叩いている横で、
クラースは片手で口元を覆いながら欠伸を絶えず続けている。
船員の案内により、出港に間に合うよう船へ駆けつけ始める。
やっとジェノスへ辿り着ける。
あの場所には、数々の思い出があるのだな…
レールに寄りかかり、二人は海風を満喫しながら水平線をじっと眺めていた。
空が少し薄暗くなり、二人を乗せた船はジェノス港に到着した。
十数分歩いた後、真っ先に街の入り口が見え、
街へ入ると、マリーは早速宿屋の方へ足を運んでいく。
ふと、クラースの持っているエターナルソードから、オリジンの声が聞こえてきた。
『主よ、この付近に世界転移の切欠があると言われているのだね?』
「あぁ、マリーの提言によるとな…。しかし、本当にそれらしきものが
見つかるのだろうか…」
『心配は要らない。今日は時間なので、明朝、日が昇る時間に探ることにしよう…』
「そうする…」
宿屋からマリーが出てくると、クラースは頷き始める。
マリーはどうやら、レンズを換金してきたところだった。
「マリー…、今日は休まないか?時間ももう遅い。手掛りは早朝に探すことにしよう…」
「そうだな…、宿を手配することにするか…」
再び宿屋に入り、部屋の手配を始める。
主人に部屋の鍵を渡され、階段を上って行く。
部屋に入り、背負っていたサックを床に置いてからマントを外すと、
クラースは一人、ベッドに身を投げて考え事を始めた。
壁にマントを引っ掛けながら、マリーは彼に話しかける。
「まだ少し時間もあるようだし、今から夕ご飯を摂りにいかないか?」
「あぁ、行こうか…」
マリーの誘いに承諾し、二人は宿屋の隣にある酒場へ向かう。
店に入ると、相変わらず盛りあがった雰囲気で、中には飲んだくれをしぶしぶ面倒みる
バニーガールの姿も見られた。
二人はカウンターの席に座り、メニューを手にする。
「クラース、お酒はイケるか?」
「あぁ。お酒は好物だ…。久しぶりに食前酒でも楽しむか…」
早速マリーは、カウンターに立つマスターにカクテルを2人分注文し、
出来あがったカクテルを片手に、軽く乾杯を交わしてから口にし始めた。
「これは…珍しいお酒だな…」
クラースがそう頷くと、マリーは突然物思いに深けこみ、思い出話を語り出す…。
「このカクテル…、この店でよくダリスと飲んでいたのさ…。
一口一口飲む度に…、記憶を失う前の一緒に過ごしていた日々を思い出す…」
「思い出か…。辛かった頃の思い出こそ、いつになっても忘れられないものなのだな…」
「また、親友のルーティともこの街で出会ったのだ。彼女に助けられ、
丁度記憶を喪失していた私に、干し肉を分けてあげたあの時の優しさ…、
とても心が痛くなって涙が止まらなかった…」
思い出に深けるマリーの背中を、クラースは片手で撫でようとするが、
緊張でなかなか上手くいかない様子である。
辛い日々を過ごしてきたマリーの思いを、クラースは少しづつ感じていた。
心切なくなっているのか、二人は注文した食べ物もなかなか飲みこめなかった…。
食事を済ませ、店を出るとクラースは突然足を躓かせた。
マリーは苦笑いをしながら頷く。
「どうしたのだ?らしくないぞ…。もしかして、私の思い出話に浸っていたとか?」
「すまない…。少し酔ったみたいだ…」
すぐにクラースは言い訳をして、何とか誤魔化した。
それから二人は宿屋に戻り、クラースは上着を脱ぎ捨てるとすぐにベッドへ横になるが、
世界転移したあとのことを思い浮かべ始め、マリーも隣のベッドに就くと、
天井を向きながらクラースの世界について問い掛ける…。
「明日、世界を転移できる手掛りが見つかるといいな…」
「あぁ…。マリーにも私が生まれ育ったあるがままの平和な村を見せてあげたい。
ミラルドも今頃、いつもどおり一人でぷんぷんしながら私の帰りを待っているだろう…」
「帰りを待ってくれる人がいるっていいことだな…。私にはもうないけど、
でも…、クラースの世界を是非旅してみたい気がしたぞ」
「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいな。さて、今日は寝るとするか…」
「そうだな、明日を楽しみにしよう…」
こうして二人は眠りに入るが、まだクラースは目を開けたまま、
自分の世界の様子を想像していた。
今頃、ユーグリッドとアルヴェニスタはどうなっているのだろう…。
ミラルド…今でも私のことを思っているのだろうか?
しかし、時の剣に隠れた威力があったとは知らなかったな…。
また、オリジンらと時空転移の方法を追究する必要が出てきた。
だが、私の世界に転移するのはいいとして、逆にマリーがこの世界に戻れなくなったら、
おそらく私に責任があるのだと思う。
私もまだまだ魔科学の知識を身につけなければならない…
夜空に星が散り出した頃には、ようやくクラースも眠りに入った。
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